CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評
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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第16回──【NOVEL編】

人気の秘密は"速さ"と"癒し"の手っ取り早さ 直木賞受賞の『下町ロケット』がニッポンを元気に!!

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──"ベストセラー"のハードルが下がる小説界に残された小さな希望......そんな良質な小説だからこそ! ここでは愛ある批評を捧げます。

2011年10月号 NOVELクロスレビュー

■自身も出産を経た作家が「母」を全力で描く

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『マザーズ』
作/金原ひとみ
発行/新潮社
価格/1995円 発行日/7月29日
同じ保育園に子どもを託している3人の母親がいる。ドラッグに手を出している作家のユカ、乳児虐待に走ってしまう主婦の涼子、不倫相手の子を身ごもるモデルの五月。それぞれが「母」としての自身の存在に悩んで走った先にあるものとは──。自身も現在2児の母となった(本作連載中に2人目を妊娠)金原ひとみが、母たちの葛藤とあがきを描く。

【ライター・江南評】
★★★★★★★★★☆
いま、女が母になり子を育てること
育児を通じて「心の闇」に向き合う母たちの、共闘と共感の物語──とまとめては、本作の野蛮さが伝えられない。主人公たちは三者三様に見えて、普遍的な「母」なる存在の分身である。「結婚」の規範が寛大化し、一人のパートナー(夫)との、共棲、生殖・育児、自己承認欲求としての性の充足、という三位一体が成立しにくいこの現代において、女が母となり、子を育てるとはどういうことか。広く(少子化対策室の人とかにも)読まれるべき。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第16回──【MUSIC編】

原宿カルチャーがAKB48に反旗を翻した!? きゃりーぱみゅぱみゅ×中田ヤスタカ『もしもし原宿』

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──今、本当に注目すべき音楽とはなんなのか? 「ROCKIN'ON」では読めない、新世代による新世代のためのミュージック批評。

2011年10月号 MUSICクロスレビュー

■ポストAKB48筆頭格? ももクロ初アルバム

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『BATTLE AND ROMANCE』
ももいろクローバーZ
発売/キングレコード
価格/2800円
発売日/7月27日


スターダストプロモーション所属の10代女子5人によるアイドルユニット。08年の結成後、握手会やハイタッチ会など地道な活動を続けてきたが、身体能力を活かしたアクロバティックなダンスや、人気作曲家・前山田健一の楽曲参加以降(10年~)は音楽的にも注目を集め、今春ブレイク。4月にはメンバー・早見あかりの脱退もあったが、初のフルアルバム発売までこぎ着けた。

【ライター・天井評】
★★★★★★☆☆☆☆
絶対的P不在ゆえの目まぐるしさ
芸人やグラドルと仕事を取り合い、ロックバンドと共演もする今のアイドルに「らしさ/らしからぬ」もないだろう。USTも背景に開放・拡張された「現場」でアイドルは、「キャラ/役割」を全力で演じ、ネタを提供し続ける。絶対的P不在のももクロらしく、複数の制作陣が入り交じる本作は早着替えのように展開目まぐるしい。が、冒頭曲の前口上=キャラ設定が世界観を担保することでストーリー性=ブランドは揺るがず。統一感はないが求心力は高い。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第16回──【COMIC編2】

コミック「ITAN」の快進撃!! マンガ好きは必読の『昭和元禄落語心中』&『地上はポケットの中の庭』

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2011年10月号 COMICクロスレビュー


■「ITAN」好調記念!? 注目シリーズの幕開け

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『昭和元禄落語心中』(1巻)
作/雲田はるこ
掲載/「ITAN」(講談社)
価格/590円 発行日/7月7日
刑務所を満期出所した男が、その足で向かったのは寄席。慰問で見事な落語を聞かせた噺家・八雲に弟子入りするためだ。八雲はぼさっとした彼を"与太郎"と名づけて連れ帰る。家には、八雲の同期・助六の忘れ形見・小夏が。紆余曲折を経て与太郎は正式に弟子入りし、小夏と共に噺家を目指す。話題のコミック誌「ITAN」連載の注目作。

【ライター・高野評】
★★★★★★★★★☆
これぞまさに真打ち、歴史的作品!
まさに真打ち登場。ものすごい作品だ、ということが、読み進める自分の心臓の動きでわかる。愁いを帯びた画の魅力もさることながら、特筆すべきは「音」だろう。爪弾く三味線に小唄、幕切れの太鼓の音、そして忘れがたい江戸訛りのセリフの数々──確実に寄席に行きたくなる。もちろん物語は秀逸。序盤から嵐の予感を孕み、孤高の名人八雲はもとより、彼と複雑な愛憎でつながる小夏からも目が離せない。これが第1巻だなんて。歴史的作品の幕開けだ。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第16回──【COMIC編1】

松尾スズキ×すぎむらしんいちの『老人賭博』は90年代サブカル好き以外にも受け入れられるか?

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──趣味の細分化が進み、ますます男女の垣根がなくなりつつある"マンガ"。いくら売れなくなってきているとはいえ、マンガ大国日本の底力は健在です! 何を読んだらいいかわからない? ならばまずはこれを読め!

2011年10月号 COMICクロスレビュー

■『ブラよろ』作者が描く戦時下の若者たち

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『特攻の島』(3巻)
作/佐藤秀峰
掲載/「週刊漫画TIMES」(芳文社)
価格/620円 発行日/8月9日
大東亜戦争末期、福岡海軍航空隊所属の予科練生・渡辺裕三は自ら志願し、人間魚雷「回天」が出撃する島にやってきた。兵器としては欠陥が多すぎる回天に乗り込めば、死は免れないという事実を前に渡辺は、「なぜ自分がここで死ぬのか?」「死ぬことに意味を見いだせない」と思い悩みながら、同期や上官と共に戦いに参画していく。

【脚本/演出家・麻草評】
★★★★☆☆☆☆☆☆
主人公の空転も、目新しさはなく
リアリティ皆無の小劇場的青春モラトリアム特攻も
の。「殺せない戦争」=「欠陥特攻兵器回天」を軸に、空転する主人公の葛藤を描くも、目新しい描写はなく、一定の需要へ向けた安定供給作の感アリ。3巻では、共に志願した同期の桜が主人公を守るために囮になるが、動機が主人公への感情移入というのは空転しすぎではないか。やはりヒロインの不在が大きな枷なのか? 段々とぼやけて不確かになっていく表紙絵の自画像演出は面白い。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第16回──【MOVIE編】

大根仁のフェティッシュ全開! 映画版『モテキ』で長澤まさみと麻生久美子が放つ魅力

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──低迷する映画業界よ、こんな時代だからこそ攻める映画を! 保守的になりがちな映画業界に喝を入れる映画評。映画を見る前にこれを読むべし!

2011年10月号 MOVIEクロスレビュー

■超人気マンガ、ドラマから今度は劇場へ
『モテキ』

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監督・脚本/大根仁
企画/川村元気 原作/久保ミツロウ
出演/森山未來、長澤まさみ、仲里依紗、真木よう子、麻生久美子
配給/東宝 公開/9月23日

非モテでヒネた31歳・幸世(森山)は転職してニュースサイトのライターになる。今度のモテキのお相手は雑誌編集者(長澤)、年上OL(麻生)、ガールズバー店員(仲)、先輩社員(真木)の4人。モテキの先には何がある!? 人気原作マンガが、主演と監督はそのままに、ドラマから劇場版になった。

【映画文筆業・那須評】
★★★★★★★☆☆☆
童貞市場のゴール、ここにあり
長澤まさみが可愛すぎる。男のグラビア的な妄想に消費されない中性的な顔立ちとショートパンツの似合うのびやかなカラダ、かつ女でも嫁にしたいほどのオンナ力の高さは偉大。自意識過剰なサブカル男子の恋愛ルサンチマンをここまでポップにメジャーで成立させたのは童貞市場のゴールであり、自主映画はその危機を感じるべき。90年代渋谷系カルチャーとその末裔の総括の記録としても貴重だが、仮想敵がB'zというのはいかがなものか。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第16回──【MUSIC】

最注目のビジュアル系エアバンド「ゴールデンボンバー」を生んだV系文化の蓄積とキャラクター消費

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「CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評」とは?

本誌連載陣でもある批評家・編集者の宇野常寛氏が主宰するインディーズ・カルチャーマガジン「PLANETS」とサイゾーがタッグを組み、宇野氏プロデュースのもと、雑誌業界で地位低下中のカルチャー批評の復権を図る連載企画。新進気鋭の書き手たちによる、ここでしかできないカルチャー時評をお届けします。見るべき作品も読むべき批評も、ここにある!

【今月の1本】
『女々しくて/眠たくて』

荻上チキ[評論家]×柴那典[音楽ライター]×宇野常寛[批評家]

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──ビジュアル系音楽誌の表紙を飾りまくる人気バンド「ゴールデンボンバー」。V系バンドの装いながらボーカル以外は演奏しないエアバンドなのだが、ライブパフォーマンスやネタ動画が話題を呼び、人気を博している。「V系的なもの」をパロディとして昇華させる彼らの背景にある、文化需要の構造的変化を語る!

宇野 まずは、それぞれのゴールデンボンバー(以下「金爆」)との出会いから話しましょうか。

 2009年の夏ぐらいから、ニューウェーブ界隈に詳しい友人から薦められていました。それで"白塗り ニューウェーブ サブカル"というシーンの対バンで見たのが最初です。そのシーンでは、もともとビジュアル系(以下、V系)だったのに小芝居をやるバンドが多いんですが、中でもゴールデンボンバーはその小芝居が図抜けていると評判でしたね。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第15回──【ANIMATION編2】

『電波女と青春男』は「何か起こりそうだけど結局何も起こらない『涼宮ハルヒ』」だ!?

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2011年9月号 ANIMATIONクロスレビュー

■シャフトと神聖かまってちゃんの結託

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『電波女と青春男』
監督/新房昭之
原作/入間人間
シリーズ構成/綾奈ゆにこ
制作/シャフト
放映/TBS系にて、毎週木曜25:55~26:25(6月30日終了)
高校生の真は、親の都合で預けられた叔母の家で、宇宙人を自称する従姉妹・エリオと出会う。クラスメイトの女子たちと楽しく過ごせそうだったのに、"電波"な従姉妹(美少女)に振り回されて、真の青春はどうなる!? 主題歌は神聖かまってちゃん+エリオ役の声優による「エリオをかまってちゃん」。

【ライター・有田評】
★★★★★★☆☆☆☆
シャフト的映像センスと世界観が合致
コミュニケーション不全の美少女たちが、心優しくちょっぴりおせっかいな主人公に介入されることで社会性を回復していくという『CLANNAD』直系の作品。そのプロット自体に目新しい物はないが、コントラストの効いた色彩設定とシャフト特有の生活感のない背景描写のおかげで、まるで白昼夢のような浮遊感が画面全体に漂っている。原作の忠実な映像化という点では、及第点ではないだろうか。良くも悪くも、いつものシャフトアニメである。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第15回──【ANIMATION編1】

ノイタミナ枠『C』は野心的なアイディアであるも、戦闘シーンに問題あり!?

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──大人も楽しめる日本のハイクオリティ・サブカルチャーのひとつ、アニメーション。日々進化し続ける技術と想像力に、どうついていったらいいのだろうか......。アニメの真の魅力を浮き彫りにする新批評。

2011年9月号 ANIMATIONクロスレビュー

■聖地・秩父の巡礼も大盛況だった青春アニメ

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『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
監督/長井龍雪
脚本/岡田麿里
制作/A-1ピクチャーズ
放映/フジテレビ系にて、毎週木曜25:15~25:45(ノイタミナ枠、6月23日終了)
幼い頃いつも一緒だった「じんたん(仁太)」「めんま」「あなる」「ゆきあつ」「つるこ」「ぽっぽ」。めんまの死をきっかけに距離ができ、高校進学時には疎遠になっていたが、ひきこもりの仁太の前にめんまが現れる。長井&岡田の『とらドラ!』コンビのオリジナル企画。

【アート講師・石岡評】
★★★★★★★☆☆☆
もっと野心的に作っても良かったのに
実写向きの題材とみられつつも、「ゆきあつ」や「あなる」に特に顕著な、アニメ的なキャラ属性を過剰に積み重ねるギミックは興味深い。OPやEDに定評のある長井監督らしいソツのない演出もあって、第一話の出来はほぼ完璧といって良い。だがその印象を超えきれていない点が惜しまれる。花火場面をクライマックスにせず、最終話のいびつさを際立たせるなどの野心的な構成を生かすことよりも、破綻せずまとめることが優先されたためか。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第15回──【COMIC編2】

醜男の悲恋が胸に刺さる! よしながふみが描くジェンダー観を揺るがす『大奥』

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2011年9月号 COMICクロスレビュー

■マンガ好きをうならせる男女逆転時代劇

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『大奥』(7巻)
作/よしながふみ
掲載/「月刊メロディ」(白泉社)
価格/650円 発行/6月28日
謎の疫病がはやり、男の人口が女の1/4となった江戸時代。3代家光から女将軍が立ち、大奥は貴重な男子を集めた女人禁制の地に。そこは、権力と愛憎をめぐる陰謀が渦巻く城だった。本巻では、7代家継の跡目争いに巻き込まれた大奥総取締役・江島慎三郎と歌舞伎役者・生島新五郎(女)をめぐる大逆事件が中心に描かれる。

【ライター・高野評】
★★★★★★★★★☆
この作品と同時代を生きてよかった!
『大奥』は、私たちの永遠の夢「とりかへばや」のその先にあるものを、巻を重ねるごとに深く抉っていく。プロローグと吉宗編のつなぎ目にあたるこの巻は、歴史の影として生きた男装女子・家光編や、普遍的な「父の娘」──女の二重基準を描ききった綱吉編などに比べインパクトでは劣るが、生島のはっとする色気や江島の静謐な横顔に胸をしめつけられる。そして、よしながふみと同じ時代を生きられてよかったとページをめくるたびに噛みしめるのだ。

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CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評第15回──【COMIC編1】

元気なときに読むと気分が悪くなること必至!? ネットで注目を浴びる地獄のミサワ『カッコカワイイ宣言!』

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──趣味の細分化が進み、ますます男女の垣根がなくなりつつある"マンガ"。いくら売れなくなってきているとはいえ、マンガ大国日本の底力は健在です! 何を読んだらいいかわからない? ならばまずはこれを読め!

2011年9月号 COMICクロスレビュー

■全マンガファン待望の新刊&連載再開!

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『HUNTER×HUNTER』(28巻)
作/冨樫義博
掲載/「週刊少年ジャンプ」(集英社)
価格/420円 発行/7月4日
希少な事物を追求することに生涯をかける"ハンター"を目指す少年・ゴンと仲間たちの成長と冒険を描く長編作。本巻では、凶暴かつ知能の高い虫"キメラアント"の王国が舞台。凶悪な王と兵隊を討伐するハンターたちの戦いを描く。作者特有のめちゃくちゃな連載ペースや度重なる休載で、単行本の発行は09年末以来となる。

【脚本/演出家・麻草評】
★★★★★★★★★☆
ジャンプで「喪失」を描く圧巻の業
「失う」ということ。それだけを少年誌で延々と描き続ける異常さが、クライマックスも近いこの巻では更に極まった。ドラマ的にはパームやウェルフィンが心の確かさ、記憶の大切さを伝え、ネテロ会長と王の戦いが興奮を呼ぶが、それだけに終わらないのが「No.299再生」のグルメ描写。文字通り我が身を粉にして王に尽くすユピーとプフ歓喜の見開きは、まさに圧巻。未読ならば29巻発売の前に全巻一気読みをオススメしたい。

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おなじみのアフロ君がくさす、毎月の気になるニュース。
花くまゆうさくの
カストリ漫報
『おなじみのアフロ君がくさす、毎月の気になるニュース。』

未来からのシナン-目指せ!
田中圭一の
未来からのシナン
『現代のビジネスマンたちの悩みを解決する、超SFマンガ。』

ITインサイドレポート
佐々木俊尚の
ITインサイドレポート
『激変するITビジネスとカルチャーの深層を鋭く抉る!』


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