透明性が問われる司法と不透明な裁判員制度の懸隔
関連タグ : 200907 | マル激 | 司法 | 宮台真司 | 田島泰彦 | 神保哲生
----さまざまな問題点が議論される中、5月21日、ついに裁判員法が施行された。だが、徹底した守秘義務と報道規制により、本来の目的とされた「市民参加により、開かれた司法を作る」との理念とは完全に逆行していると、表現の自由やメディア規制を専門とする上智大学文学部の田島泰彦教授は指摘する。「これまで通りの閉鎖的な司法を正当化するために、司法当局が裁判員制度を利用しているとも考えられる」と続ける田島氏とともに、国民の知る権利と閉ざされた制度の矛盾を浮き彫りにする。
【今回のゲスト】
田島泰彦(上智大学教授)
神保 5月21日、ついに裁判員法が施行されました。これまでマル激トーク・オン・ディマンドでは、賛成派、反対派を含めて、裁判員制度について議論を重ねてきましたが、今回はとりわけメディアにまつわる問題----制度の非公開性について話し合いたいと思います。仮にある制度に欠陥があったとしても、知る権利さえ確保されていれば、いずれその問題は周知され、是正されることが期待できる。しかしながら、裁判員制度では裁判員自身に課される守秘義務はもちろんのこと、報道機関も司法当局との話し合いで「自主規制」を決定している。これでは重大な問題があっても、誰もそれを公然と語ることができないし、誰もそれを知ることができない。この問題をどうするかは、喫緊の課題と言えると思います。
宮台 一般に、表現規制や報道規制なるものは、「鍵の閉まった箱の中の鍵」問題という、有名なパラドックスを構成します。神保さんもおっしゃるように、制度に問題があっても、我々はそれを知ることができないように制度自体が作られている、という問題です。まさに由々しき事態です。
神保 今回は、共著『裁判員制度と知る権利』(現代書館)を出された上智大学文学部新聞学科教授の田島泰彦と、議論を進めていきたいと思います。まずは田島先生が考える裁判員制度の問題点を、総論としてお聞かせください。
テポドンの発射で測られた 政治的感情と日本の民度
関連タグ : 200906 | マル激 | 宮台真司 | 小此木政夫 | 神保哲生
──4月5日、北朝鮮より発射された「飛翔体」により、日本中が騒然となった。こうした北朝鮮の瀬戸際外交が起こるたび、制裁を強化してきた日本だが、すでに160カ国との国交を持つ北朝鮮に対していかなる制裁を行おうともその効果は期待できない。だが、もはや生き残ること自体が国家目的となっている北朝鮮に対し、「日本、そしてアメリカとの国交を正常化し、体制変革と経済復興を実現すれば生き残れるという意識を植え付けることができれば、核、そして拉致問題の解決策になると、朝鮮半島研究の権威・小此木政夫教授は語る──。
【今月のゲスト】
小此木政夫(慶應義塾大学教授)
神保 今回は、朝鮮半島研究の第一人者で、慶応義塾大学法学部教授の小此木政夫先生をお招きし、日本の対北朝鮮政策について考えたいと思います。まず、先の「飛翔体」騒動を振り返りたいのですが、国連から北朝鮮を非難する議長声明が出たことを受け、北朝鮮政府は4月14日、これを推進した日本を批判し、6者会談からの離脱を表明。「自衛的核抑止力を強化する」と宣言し、IAEAの査察チームも国外退去処分にしてしまいました。
宮台 社会学では「表出」と「表現」という概念があります。「表出」はエネルギーや感情の発露で、「表現」は目的を持った伝達です。両者は独立した概念なのでクロス表を作れます。「表出」に成功しても「表現」としては無意味な場合もあれば、逆もあります。誰もいない空地で叫んでスッキリするのは前者で、歌手がクチパクで唱うのは後者です。
今回の件では、「断固・決然」的な制裁措置で「表出」のカタルシスを得ても、外交は政治ですから、最終目標を達成しなければ「表現」として失敗です。最終目標とは国土の安全。今回のテポドンはMD(ミサイル防衛)がカバーできる高度のずっと上空を飛翔するし、MDは着弾点の真下から命中させるしかないので、MDを持ち出す時点で阿呆です。すでにノドン200発が実戦配備されて東京が射程に入っている以上、ノドンに搭載可能な核の開発を無力化する以外、国土の安全はない。日本が無意味な大騒ぎをし、北朝鮮はそれを理由に核の無力化のための6カ国協議から離脱したのだから、日本の外交は爆笑ものです。
今回は、国民もマスコミも政治家も「究極の馬鹿揃い」であることが証明されました。
検察リークが世論を導く 小沢秘書逮捕と報道の共謀
関連タグ : 200905 | マル激 | 宮台真司 | 神保哲生
小沢一郎民主党代表の公設第一秘書が、政治資金規正法違反により逮捕・起訴された、西松建設献金事件。東京地検の捜査が与党の大物・二階俊博経産相の周辺にまで及ぶのか、連日、その一挙一動が報じられている。一方、「秘書逮捕は国策捜査」との指摘が多数聞かれる中、元検事の郷原信郎氏は、「突然の逮捕では、検察の政治性が批判されることは避けられない」と語る。「政治資金規正法の解釈」「小沢批判と検察批判の交錯」「検察の説明責任」など、事件をめぐる検察の判断を考察する──。
【今月のゲスト】
郷原信郎(桐蔭横浜大学法科大学院教授)
神保 東京地検は3月24日、民主党小沢代表の公設秘書を政治資金規正法違反で起訴しました。小沢代表は同日の記者会見で続投の意向を示し、この問題はひとつの節目を迎えたといえるでしょう。逮捕直後には、政権交代の可能性が大きい総選挙を控えた時期に、検察が政治資金規正法の虚偽記載だけで野党第一党の党首の公設秘書を逮捕するなんていうオンチなことをするだろうか、ほかに何か大きな山があるのではないかという見方もあったが、結局何も出てきませんでした。今回は元検事で桐蔭横浜大学大学院教授の郷原信郎さんを招き、起訴に踏み切った検察の判断と、説明責任について議論を進めたいと思います。
郷原 私は公設秘書の逮捕直後から、「まさかこれだけで終わるとは、常識的に考えられない」と言いながら、実際はそこで終わるだろうと思っていました。その先に大きな事件があるとは思えなかった。だからこそ、逮捕したこと自体がとんでもないと思っていましたが、検察の処分が行われるまではそれを言うのは控えていました。
宮台 起訴内容も、小沢さんに捜査の手が及ばないだろうということも、予想どおりでしたね。
大手メディアは報道不可能? 正社員既得権益という病巣
関連タグ : 200904 | マル激 | 城繁幸 | 宮台真司 | 神保哲生
──経済危機が叫ばれる昨今、企業による景気対策は、「派遣切り」など人件費の抑制に表れており、非正規雇用者が犠牲になっている。これは社会問題として扱われ、巷では派遣法の緩和を問題視する向きが強い。だが、企業人事の専門家で『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社)の著者でもある城繁幸氏は、「雇用問題の本質は正社員の既得権益化にあり、派遣の規制強化ではなんら問題の解決にはならない」と主張する。日本の企業が抱える就労事情の歪な構造、そして雇用問題の解決策など、メディアが触れない論点を浮き彫りにする──。
【今月のゲスト】
城 繁幸(Joe's Labo代表)
神保 今回は、企業人事の専門家で『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社)の著者でもある城繁幸さんを招き、巷にあふれる雇用談義から抜け落ちている"正社員・正規雇用者の既得権益"というテーマについて、議論を進めたいと思います。格差が語られるとき、派遣や非正規雇用ばかりが取り上げられ、これらの既得権益がほとんど語られない理由についても、しっかり見ていきたいと思います。
宮台 僕は大学で就職支援委員会の委員長をやっているのですが、関係者には同書を読んでいる人が大勢います。今や、城さんの書物を読まずに若年雇用の現状を語ることは、できなくなりました。ですから、今回お会いできることを、楽しみにいたしておりました。
JAはいずれ破綻する? 知られざる農政の闇
関連タグ : 200903 | JA | マル激 | 宮台真司 | 山下一仁 | 神保哲生
――現在、世界貿易機関(WTO)が主催する国際会議「ドーハ・ラウンド」において、コメの関税引き下げに反対する日本に、さらなるコメの最低輸入義務を課すという交渉が行われている。これが妥結した際、国内の生産量を抑えながらも、輸入量が増えるという矛盾が起こるのだが、これには、農協(JA)と兼業農家を守る政策が見え隠れしているという。同会議での交渉とともに、日本の農政が抱える問題点を浮き彫りにする。
【今月のゲスト】
山下一仁(経済産業研究所上席研究員)
神保 2001年から、WTOのドーハ・ラウンド(多角的通商交渉)が続いていますが、昨年12月に開かれる予定だった閣僚会合が延期され、いまだに合意の道筋が見えてきません。ドーハ・ラウンドでは世界貿易のルール作りが行われており、日本の農業や食糧自給にも大きな影響を与えるはずですが、日本の報道ではその意味が矮小化されているように思えてならない。今回は、昨年3月まで農水省に勤められていた、経済産業研究所上席研究員の山下一仁さんをお招きして、WTO交渉から見えてくる日本農政の問題点について議論したいと思います。まず、ドーハ・ラウンドの現状について教えてください。
山下 農業の分野でいえば、交渉上2つの問題があります。ひとつは市場アクセスの面で、関税をどれだけ下げるかという問題。そして、もうひとつは主要国の農業に対する国内補助金をどれだけ削減するかという問題です。1986〜95年のウルグアイ・ラウンドでは、EUとアメリカの対立が農業交渉を規定していましたが、最近では、先進国----特にアメリカと、インド・中国という新興大国の対立が一番の焦点になっています。アメリカは、発展途上国の市場を自由化したい。一方でインド・中国は、「自国への輸入が増加した時に、関税を上げるなり、輸入制限をするなりの手立てが必要だ。特に、アメリカの国内補助金が大きすぎることが、国際価格の低下を招いている。これを削減することが必要だ」と言う。こうした対立の中で、日本は「関税の引き下げに反対だ。コメをはじめとする重要品目を対象から外してほしい」という従来の主張を続けており、奇妙な形で孤立しています。
サブプライムから見えた資本主義の"正体"
関連タグ : 200902 | サブプライムローン | マル激 | 宮台真司 | 小幡績 | 神保哲生
──アメリカのサブプライムローンの破綻に端を発するといわれている、昨今の世界金融危機。返済能力の有無を問わない無責任な金融商品とされることが多いサブプライムローンであるが、今回のゲスト小幡績氏によるとこの問題は、金融資本が自己増殖することでバブルを作り出し、やがて崩壊するというバブル経済の"お約束の過程"にすぎないと指摘する。世界経済の脅威となるサブプライム問題から、金融資本主義の正体が浮き彫りになる──。
【今月のゲスト】
小幡 績[慶應義塾大学大学院准教授]
神保 今回は慶應義塾大学大学院の小幡績准教授を招き、いまだに先の見えない金融危機とサブプライムショックを再考し、"金融資本主義の正体"というテーマで議論を進めたいと思います。小幡さんは、昨年8月に『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)という本を出されましたが、サブプライムショックとは何かということを説明した書籍の中で、これ以上にわかりやすく、かつ面白いものはありませんでした。
裁判員に求められる"民度と良識"の懸隔
関連タグ : 200901 | マル激 | 宮台真司 | 斉藤貴男 | 神保哲生 | 裁判員制度 | 西野喜一
──12月初旬、来年5月から始まる裁判員制度に向けて最高裁が一斉配送した、裁判員候補者への通知が到着した。既報の通り、専用コールセンターには候補者からの問い合わせが殺到し、あらためて裁判員制度導入の実感を感じさせた。「裁判員にのしかかる負担」「公判前整理手続と裁判の簡略化によって失われる精密司法」「冤罪や誤判の可能性が高まる危険性」などを指摘し、裁判員制度に強く反対の意を表明している元裁判官・西野喜一氏、ジャーナリストの斎藤貴男氏とともに、その問題点と内在するリスクについて考える。
【今月のゲスト】
西野 喜一[新潟大学大学院教授]
斎藤 裁判員制度が開始される来年5月21日まで、いよいよ半年を切りました。しかし現在でも、同制度には問題があるという意見が少なくありません。今回は、昨年8月に『裁判員制度の正体』(講談社現代新書)を出版された、元裁判官の西野喜一・新潟大学大学院実務法学研究科教授をゲストにお招きし、神保さんの取材で見えてきた問題点を踏まえながら、この制度について徹底的に議論したいと思います。
アメリカ型金融資本主義の 終焉と日本に必要な"想像力"
関連タグ : 200812 | マル激 | 宮台真司 | 日隅一雄 | 神保哲生
──9月下旬、ブッシュ政権が、アメリカ金融機関の破綻を食い止める目的で急遽取りまとめた金融安定化法案を、下院が否決した。これを受け、ニューヨーク株式市場はダウ平均が過去最大の下げ幅を記録するなど、混迷の度合いを強めていった。巨万の利潤を求めた金融機関が暴走した結果、金融危機が起き、そのたびに規制を強化してパニックを鎮めるというのが、経済史から見られる習わしである。今回は、経済史に詳しい若田部昌澄氏と共に、肥大化する金融経済とウォール街のビジネスモデルについて論じ合う──。
【今月のゲスト】
若田部昌澄[早稲田大学政治経済学術院教授]
神保 9月29日、金融機関の破綻を食い止める目的で米・ブッシュ政権が取りまとめた金融安定化法案を、米下院が否決しました(10月3日、修正案を可決)。その結果、ニューヨーク株式市場はダウ平均が777ドル安と過去最大の下げ幅を記録、日本の新聞を読むと「何をやっているんだ」「自分の選挙区の事しか考えていない」という批判的な論調のものが多かったが、同法案に反対した下院議員の主張にも見るべき点はある。今回は早稲田大学政治経済学術院の若田部昌澄教授を迎え、金融の問題のみならず、それを支えている社会的文脈についても議論ができればと思います。まず、アメリカが"この期に及んで"法案を否決したという状況をどう見ますか?
マスコミが利権を持つという末期的状況とその打開策
関連タグ : 200811 | マル激 | 宮台真司 | 日隅一雄 | 神保哲生
──日本のマスコミが"マスゴミ"と揶揄されるようになって久しいが、その発端は1960年代にまでさかのぼると『マスコミはなぜ『マスゴミ』と呼ばれるのか』(現代人文社)の著者・日隅一雄弁護士は語る。当時の田中角栄郵政大臣によって全国紙・地方紙を含む新聞各社がテレビ局を系列化し、"テレビ"という免許事業を利権として新聞社が握ったことで、権力に取り込まれる構造が出来上がってしまったということだ。今回はそんなマスゴミと酷評されるに至った原因について、日隅弁護士とともに徹底検証する──。
【今月のゲスト】
日隅一雄 [弁護士]
神保 今回は、数々のメディア訴訟にかかわってこられた日隅一雄弁護士をお招きして、メディアが抱える構造的な問題とその背景について議論したいと思います。日隅さんは近著の『マスコミはなぜ『マスゴミ』と呼ばれるのか』(現代人文社)で、"メディアが権力に介入される仕組み"を暴いていますが、まずこの本を書かれた理由とは?
日隅 2010年に情報通信法が法制化される時に、現在あるマスメディアへの規制と同様の構造で、インターネットも規制されることは間違いありません。これには批判の声を上げなければなりませんが、そもそも多くの方が、マスメディアがどんなシステムで規制されているか、ということをご存じないのではと思ったんです。まずはこれを解きほぐさないと、日本のメディアがまた、50年、100年の単位で窒息状態になってしまうだろう、と。
自殺大国の実相と社会的包摂の必要性
関連タグ : 200810 | マル激 | 宮台真司 | 斎藤貴男 | 清水康之
──6月に発表された統計では、昨年の自殺者数は過去2番目に多い3万3093人に達し、10年連続で3万人を超えたという。こうした現状を受け、自殺対策支援を行うNPO法人ライフリンクでは、遺族を対象に詳細な聞き取り調査を行い、自殺に至る要因などを白書にまとめた。そこでは、経済的要因との相関関係と共に、金融機関破綻による金融不安や貸し渋り、貸しはがし、さらに、急激に進んだ構造改革などの影響が指摘されている。こうした事実を通じて見えた自殺の実態を、神保氏に代わって司会を担当する斎藤貴男氏とともに議論する──。
【今月のゲスト】
清水康之[NPO法人ライフリンク代表]
斎藤 6月に警察庁から発表された統計によると、昨年の自殺者は10年連続3万人を超え、過去2番目に多い3万3093人に達していたことが明らかになりました。まず宮台さんに伺いたいのですが、これについてどうお考えですか?
宮台 ここ10年間だけコンスタントに3万人を超えたり、G8中で日本が1位、OECD(経済協力開発機構)加盟国中でハンガリーについで2位であるなどの、歴史的・領域的な特異性がある以上、昨今の日本に固有の背景があると言う他ありません。ならば、政策的手当が必要です。