「芸能界のドン」との異名を持つ、バーニングプロダクションの周防郁雄社長。長きにわたり隠然たる影響力を持ち続けてきた周防氏の「引退報道」が、今年に入り報じられた。本誌とも因縁浅からぬ周防氏の身に何が起こっているのか? なぜバーニングは、芸能界のタブーとされるのか? その光と影を振り返る。
周郁雄氏が株式会社バーニングプロダクションの代表を退いたのは事実だ。同社の登記情報を見てみると、周防氏は昨年12月23日に代表取締役を息子の彰悟氏にバトンタッチし、自らはその数日前に取締役をも退任している。さらに同時期には、周防氏の盟友で芸能界の重鎮であるケイダッシュの川村龍夫会長や川村氏の右腕である同社の谷口元一氏が取締役に就任するなど、経営陣が刷新されている。これまでも「バーニング案件」をこなしてきた谷口氏が中心となって、音楽出版事業の実績はあるものの、マネジメント経験は浅い彰悟氏をサポートしていくようだ。
バーニングプロダクションの登記簿謄本。周防氏の代表取締役からの退任、彰悟氏の就任が記されている。
彰悟氏は「週刊文春」の取材に対して、周防氏が昨年10月に軽い脳梗塞を起こしたことが今回の退任劇のきっかけだと語っている。周防氏に命の別状はなかったものの、記憶力などの認知機能に不安が生じたため、社長職を続けるのは困難だと周囲が判断したようだ。しかし、周防氏本人からはいまだ関係者に向けた退任に関する説明がないことから、「彰悟氏によるクーデター説」が囁かれることとなった。
対する彰悟氏は、クーデター説を文春で否定している。しかし、これまで周防氏と頻繁に連絡を取ってきた業界関係者の多くが「周防氏とまったく連絡が取れない。携帯電話の電源が入っていない。マメな人だけに不自然だし、心配だ」と語る。一説には「周防氏は現在、体調面を考慮して特別な施設に入居しており、携帯は家族の管理下にある」(芸能プロ関係者)とのことで、こうした周防氏の自由が制限されている状況も、クーデター説につながっているのかもしれない。
本誌も周防氏には思い入れがある。インディペンデントメディアとして、創刊時からマスコミタブーに切り込むことをコンセプトのひとつとしてきたため、「芸能界のドン」と崇め、恐れられる周防氏の素顔に迫ることは避けられなかったのだ。
ジャニーズ事務所が圧倒的なタレントパワーを背景に多くのマスコミをコントロールしてきたのに対し、バーニングはマスコミへの直接的な利益供与で支配してきたといえる。テレビ局のプロデューサーや新聞社、出版社の部長、編集長クラスといったマスコミ関係者への接待は当然のこと、盆暮れの付け届けから冠婚葬祭にまで目配せを行い、時にはその家族の誕生日にまでプレゼントを届けるという気遣いを見せた。業界内では「周防氏からスイカを贈られるようになったら、芸能マスコミ人としては一人前」などと言われるほどだった。大手プロダクション幹部も「あの気遣いや面倒見の良さは業界では図抜けている」と舌を巻く。一方で、「そうした交際費にかかるコストも莫大。バーニング本体だけではなく、系列プロにも負担を強いていた」(同)とも言われてきた。
周防氏が関係各所に贈呈していたスイカ(の箱)。スイカは周防氏の故郷である千葉県産。サイゾー関係者でもらえた人はいない。
物品だけではない。マスコミにとって最大のアメである「スクープネタ」を渡すこともある。有名タレントの交際・入籍情報から、表沙汰になっていないゴシップまで、周防氏の元にはどこよりも早く深い情報が集まるのだ。その情報を求めて、B担と呼ばれる各メディアの担当者は、〝周防氏詣で〟が欠かせなかった。
そもそも、バーニングと関係の深いタレントを自社企画に起用したいと考えた場合、周防氏に従順であることは合理的判断だ。周防氏がつないでくれた人脈がきっかけでビジネスを拡大させた者も少なくない。
その結果、誰も周防氏の機嫌を損ねるようなことはできなくなる。バーニング系タレントのスキャンダルはマスコミに黙殺され、バーニングの意に反することは、マスコミタブーと化していったのだ。
さらに、周防氏を語るときに外せないのは、裏社会との交流だ。20年以上も前の話だが、あるスキャンダル雑誌の編集長が周防氏に呼び出され、抗議されたことがあった。周防氏の横にいたのは、広域暴力団の直参と右翼団体トップだったという。彼らが何かをしたわけではないが、威圧効果は抜群だった。これに類似した話はほかにもあり、それらの逸話がまことしやかに囁かれてきたことも、バーニングのタブー化に一役買ってきたわけだ。島田紳助が暴力団との交際発覚を理由に引退したように、芸能界においてもコンプラ重視の時代。近年は周防氏と裏社会との噂は耳にしなくなったが、一度ついた強面のイメージはいまだ払拭されていない。
本誌もかつて、周防氏のケツモチをしたのち決別したという元暴力団組長のインタビューを掲載したことがある。元組長は周防氏との蜜月ぶりやその後のトラブルを事細かに語ったが、事実無根の内容が含まれるとして、民事訴訟を提起された。同時期に、会社や社長宅前に右翼団体の街宣車が来たが、周防氏との関係は不明だ。ちなみにその訴訟は、インタビュー内容の立証に協力が不可欠な元組長が、芸能人への恐喝容疑で逮捕・拘留されたため、本誌は訴訟維持は困難と判断、和解に持ち込んでいる。この逮捕劇と周防氏との関係も不明だが、同氏の力を垣間見せられた気がしたのは間違いない。
そんな周防氏も84歳。バーニングの隆盛は、「芸能界のドン」とまで称された自身の人柄や才覚によるものとの自負はあるだろう。そのためか「バーニングは一代限り」と周囲には漏らしていたという。それゆえ、モヤモヤが残る今回の事業承継と引退報道である。周防氏は本当にこのままフェードアウトしてしまうのだろうか?