中村正人×堤幸彦 対談
写真/増永彩子
独創的かつ多彩な作品を数多く手がけてきた堤幸彦監督とDREAMS COME TRUEの中村正人がタッグを組んだ映画『Page30』。
錚々たるクリエイター陣が集結した本作の上映場所は、渋谷に設置したテントシアター。
この超異例のプロジェクトは、なぜ始動したのか。長年にわたって日本のエンタメ界を牽引してきた2人に話を聞いた。
──「渋谷 ドリカム シアター」は、映画 『Page30』の公開にあたり、メイン上映館として渋谷警察署裏の平地にテントシアターを建てる前代未聞のプロジェクトです。どのような経緯で企画が立ち上がったのでしょうか。
中村 『Page30』を堤監督と一緒に作らせていただきましたが、プロモーションをするにあたって、この映画が非常に説明しにくい作品なんですよ。
堤 そうですか(笑)。
中村 それで頭を悩ませているときに、昨年7月7日の「ドリカムの日」に、吉田美和の故郷・北海道池田町にある「いけだワイン城」という施設に堤監督も招いてプレミア上映を行ったんです。大自然の中に、たくさんの人たちが集まって、舞台を扱った密室劇をどうやって観るのかと思っていたら、すごくリアクションがよかったんです。そんな経験も踏まえて、いよいよプロモーション時期を迎えたときに、配給会社の方が「この映画は実際の〝地面〟を使って上映しましょう」とおっしゃって。僕も最初はピンとこなかったんですが、特設テントを建てて、そこで上映するのはどうだというお話をご提案いただいたんです。
──すぐに受け入れられましたか?
中村 映画の出資だけでもクタクタになっていますので、さらにお金がかかるのかと戦々恐々としました(笑)。ただ、今回は映画の内容も含めてアバンギャルドにやりたかったんですよね。堤監督を中心に集まったクリエイター陣が自由に爆発できるような作品にしたかったので、宣伝と上映方法も、誰もやったことのないことをやりたいという思いが強かった。やっぱり我々の原点って興行だと思うんですよね。入場料を取って、そこで何かを見せて、我々は収益を得るという構造。過去をさかのぼると「夢の遊眠社」が東大の寮食堂から始まっていたり、今も紅テント(劇団唐組)、黒テント(劇団黒テント)が続いていることを考えると、これは面白いと。我々の思い出の地・渋谷に夢の装置を作ろうじゃないかということで始まりました。
──映画の企画はどのようにスタートしたのでしょうか。
堤 中村さんにオファーをいただいて、別の企画で進んでいたんですが、非常に難しい問題に直面しまして……。
中村 主にバジェット(予算)面です(笑)。
堤 海外ロケを含めた高尚な作品だったんですが、お金のこともあって企画を変えなきゃいけないと。本来なら「失礼します」と引き下がるところを、「実はもっと面白い話があります」と。それで新たに持っていった企画が『Page30』です。
──なぜ演劇という題材を選んだのでしょうか。
堤 僕はたくさんの舞台に演出家として携わっていますし、演劇界隈、特に小劇場と言われる場所に集まる人たちには面白いエピソードがたくさんあるなというところから、この話を思いつきました。『ダニーと紺碧の海』のように難解な劇中劇の台本は劇団「ロ字ック」主宰の山田佳奈さんに、脚本のセリフは劇団「マカリスター」主宰の井上テテさんにお願いしたのですが、そのキャスティングも見事にハマりました。上原ひろみさんの劇中音楽、中村さんの手がけた楽曲も含めて、奇跡的な座組になった上に、上映はテントシアターという大事件!
──メインキャストの役者陣を追い詰めるような、難しい脚本だったかと思います。
堤 4人の役者の皆々様方は、そんなヤワじゃない。演劇的な手練れとでも言いましょうか、相当図太いですよ。あれぐらいの圧力だとまったくへこたれないどころか、「もっともっと!」という貪欲さがありました。
──女性を主役にした理由は?
『Page30』 4月11日(金曜) 渋谷 ドリカム シアター他、全国映画館にて公開30ページの台本。スタジオに集まった4人の女優は、この台本に3日間かけて向き合い、4日目に舞台公演をすると告げられる。配役は未定。閉ざされた環境で動揺するものの、やりたい役をつかむため、4人は稽古に打ち込んでいく。演出家、監督不在という演技の無法地帯で、役者人生を懸けた芝居がぶつかり合う。ついに4日目、仮面をつけた観客が見守る中、4人の舞台が始まる……。主演:唐田えりか、林田麻里、広山詞葉、MAAKIII/原案・監督:堤幸彦/音楽:上原ひろみ、中村正人/エグゼクティブプロデューサー:中村正人/脚本:井上テテ、堤幸彦/劇中劇「under skin」脚本:山田佳奈/製作・配給:DCT entertainment, Inc.公式HP〈https://page30-film.jp〉 公式X〈@page30_movie〉
堤 ジェンダーについてどうこう言うつもりはないんですが、今は映像・演劇界隈において、女性が圧倒的に強いんですよね。仕事に対する執着も強い。わりと男性のほうがするっと田舎に帰っちゃうみたいなことが、我が社においても枚挙にいとまがないわけです(笑)。混乱の中でも強い心を持ち続けるという主人公たちなので、それぞれタイプの違う女性を設定しました。
──中村さんは初めて脚本を読んだとき、どんな印象を抱きましたか?
中村 秀逸な脚本だと思いました。映画に登場する女優4人のさまざまな人生模様が、我々の人生にも重なってくるんです。頑張っても上に行けない人。職業を変えてみたものの上手くいかない人。能力はすごいけど心に闇を抱えている人。周りはスーパースターだと思っているけど実感できない人など。おそらくどこの世界にもあることだし、子どもたちですら社会というものをSNSの中に持っているので、インターネットの中で疎外感があったりもする。そんな空洞みたいなものを、この映画で表現したいと思いました。