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「マル激 TALK ON DEMAND」【189】

フジ問題で露呈した利権産業“放送”の堕落と終焉

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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砂川浩慶(すなかわ・ひろよし)
[立教大学社会学部教授]

1963年、沖縄県生まれ。86年、早稲田大学教育学部卒業。同年より日本民間放送連盟職員。立教大学社会学部メディア社会学科助教授を経て2016年より現職。23年より立教大学社会学部長。専門はメディア政策・法制度、放送ジャーナリズム論。著書に『安倍官邸とテレビ』(集英社新書)など。

フジテレビの幹部が自社の女性社員をタレントの中居正広氏に引き合わせ、その後両者の問で性被害問題が発生。にもかかわらず、その事実を隠したまま中居氏を番組の司会として1年半以上も起用し続けたことが、社会問題にまで発展している。この問題を奇禍として日本は利権と甘えの温床となってしまった放送行政のあり方を見直すことはできるのだろうか。

神保 今回はメディア政策や放送法、放送ジャーナリズム論などがご専門の立教大学社会学部教授の砂川浩慶さんをゲストに迎え、フジテレビ問題を入口に日本の放送行政が抱えている問題について議論したいと思います。まず、フジテレビがあたかも諸悪の根源のようになってしまい、どの番組にもほとんどCMが流れなくなっている現在の状態をどう見ますか。ACのCMしか流れないという事態は、大震災や天皇崩御の時にしか起きなかった現象です。それが今、フジテレビだけに起きています。

砂川 前代未聞ですが、それだけ1月17日の1回目の記者会見がひどかった。改めて10時間半の会見を行わざるを得なくなり、そこで感じたことは2点。まずは40年の日枝体制の膿が出たということ。もうひとつは、一般企業と放送業界の女性に対する人権意識が特にこの10年で乖離したということです。フジテレビの記者会見でひな壇にいたのは全員男性で、司会をした上野広報局長も男性。社外取締役会の委員会(経営維新小委員会)ができましたが女性はひとりだけで、その人は天下りです。今の時代、こんなことは通用しない。

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1月27日に行われたフジテレビ上層部による会見は10時間にも及んだ。(写真/David Mareuil/Anadolu via Getty Images)

神保 メディア全般にそういう傾向があるのですが、特にテレビの世界では日枝久氏のような「天皇」と言ってもいい絶対的な存在がなぜ生まれてしまうのでしょうか。

砂川 後継者を育てる感覚がなく、アメリカの大統領のように8年で絶対に代わらなければならないような仕組みもありません。日枝さんが編成局長になったのが1980年で、それから実質的な力を持ちました。2017年に取締役相談役になりましたが、取締役で隠然たる力を持っており、現在まで40年以上がたっています。
宮台 なぜ放送業界に「天皇」がいるのか。自動車会社について考えてみると、車はテクノロジーにバインドされた〝変わりにくさ〟があります。しかし放送は情報なので、取捨選択・選別・編集でどうにでもなる。社長が誰になるかによって放送の編成や編集の方向づけが変わります。逆にそれがなければ、情報がたくさんありすぎてどうしたらいいのかわからなくなるんです。

神保 これは放送業界に限ったことではありませんが、利権、とりわけ政府によって利権が与えられている産業では、政府とのパイプ役を担う役員が絶対権力者として長年君臨する傾向があるように思います。認可や免許を前提とする放送は有数の利権ビジネスなので、そこに政府や政官界の実力者と太いパイプを持つ利権の守護神的な役割を担える人物が必要とされる素地があるのでしょう。

ただ、もともと放送業界は多くの問題を抱えていて、特にその唯一の商品である番組の劣化は目に余るものがあり、多くの一般市民がテレビに背を向け始めていました。今回はそれに輪をかけるような形で不祥事が露呈しました。今回この問題の原因を徹底的に検証できなければ、テレビ業界の衰退には歯止めがかからなくなるように思います。

まず日本は放送法によって、本来国民の有限の資産である「電波」を特定の事業者に占有させ、放送局は電波の利用だけでなく番組の制作に関しても全責任を負うという立て付けになっています。それが日本の放送局の利権を絶対的なものにしています。他の先進国では、例えば放送局が一定の比率で番組を制作会社に外注しなければならなかったり、新たな周波数が割り当てられる時はオークションで入札が行われたりするなど、放送局の権益というものが絶対的なものとしては扱われていません。また、何よりも日本以外の先進国で政府が直接、放送免許を付与している国はありません。

砂川 日本とロシアと北朝鮮くらいです。

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