編集者として次々とヒット作を世に送り出す一方で、作家・マンガ原作者としても数多くの作品を発表する草下シンヤ。
2024年からフリーとなった彼が見据える未来と、数多くのアウトロー本をヒット作に導いた処世術とは?
(写真/淵上裕太)
──草下さんは24年に退社した彩図社の編集者として282冊の本を世に送り出し、162冊が重版(24年8月時点)と、とんでもない重版率を叩き出しています。そもそも編集者になった経緯からお聞かせいただけますか?
草下シンヤ(以下、草下) 中学時代からサブカル系の本や雑誌が大好きだったんですが、地元・沼津にいた頃からアウトロー界隈の友人が多かったので、いろいろ悪い遊びもしていて。ドラッグ関係の本も読むようになって、実際に大麻も吸っていたんです。高校卒業後は地元で1年間プラプラしながら物書きもしていたんですが、どうやって世に出していいのかもわからず、人生も定まらない。このまま地元にいると、悪い世界に取り込まれそうな予感があったので、とりあえず親には予備校に通うことを口実にお金を出してもらって上京することにしました。
──何かアテはあったんですか?
草下 特になかったのですが、彩図社に知り合いがいたので遊びに行ったら、流れでバイトをすることになりました。当時の彩図社は自費出版をやっていたのですが、あまり面白くないからと企画出版をすることになって。でも社内に経験者がいないから、どうしていいのかわからない。そこで自社の自費出版レーベルで売れていた『海外ブラックロード』という文庫を単行本にして商業出版することになったんです。
──どういう内容ですか?
草下 一般的な旅行本ではなく、トラブルや風俗などの刺激的なエピソードばかりを抽出したサブカル的な内容です。それをブラッシュアップして加筆修正して出したら売れたんですよね。その後、シリーズ作を何冊か出した後、この路線を踏襲して「危ない旅行書シリーズ」を立ち上げました。
──草下さんは自社からいくつも著書を出していますが、草下シンヤ名義で初めて本を出したのはいつ頃ですか?
草下 確か24歳だったと思います。私にはノウハウがないから企画の出し方もわからない。だったら自分の経験を書くしかない。ドラッグのことなら書けるし、社員だから予算も抑えられる。それで草下シンヤ名義で『実録ドラッグ・リポート』という本を出したんです。1回限りのつもりで付けたペンネームだったんですが、そこそこ売れたので、次に『裏のハローワーク』という本を出しました。当時、村上龍さんの『13歳のハローワーク』(幻冬舎)がミリオンセラーになっていたので、裏側の切り口でやったら面白いんじゃないかということで書いたら20万部超えのベストセラーになったんです。そこから情報も集まりやすくなりましたし、よりサブカルや裏社会といった企画の本を出していくようになりました。
──一方で、マンガ原作にも携わっています。
草下 マンガも裏社会物が人気です。暴力とセックスが入るから刺激的で焦燥感があって展開を作りやすいんです。
①『あるヤクザの生涯 安藤昇伝』
石原慎太郎/幻冬舎/21年
戦後の復興期に愚連隊を作り、後に安藤組を設立。解散後は俳優に転身した伝説のヤクザ・安藤昇の生涯。すぐに人を殺しに行こうとしたり、殺されそうになったり、芸能界とのズブズブの関係だったりが面白く描かれています。
②『極道一番搾り 親分、こらえてつかあさい』
溝下秀男/宝島社文庫/03年
工藤会の三代目会長、四代目総裁を務めた溝下秀男さんの自伝ですが、ヤクザには愛嬌が大事だと仰っていた方で、語り口が明るいんです。組員に対する眼差しも優しくて、地元でヤクザが尊敬されていた時代の雰囲気がわかる本です。
③『喰うか喰われるか 私の山口組体験』
溝口敦/講談社文庫/23年
溝口敦さんはヤクザ取材の第一人者で、山口組関連の本をたくさん書かれていて、ご自身も息子さんも襲撃を受けた経験があります。自身の体験記でもあり、山口組の変遷もわかるようになっていて、ヤクザの現代史としても読めます。
④『闘いいまだ終わらず 現代浪華遊侠伝・川口和秀』
山平重樹/幻冬舎文庫/16年
川口和秀さんは二代目東組二代目清勇会の元トップ。ヤクザに対する締め付けが厳しくなる最中、昭和60年に起きた「キャッツアイ事件」に巻き込まれて服役します。冤罪に近い状況の中で、自分の意思を貫く姿がかっこいいです。
⑤『サカナとヤクザ』
鈴木智彦/小学館文庫/21年
漁業とヤクザがどう結びつき、時代に応じてどう変化していったのか。何気なく食べている魚介類が、実はヤクザの利権が絡んでいることを鈴木智彦さん自ら体を張って解き明かし、現代ヤクザの姿を浮かび上がらせる名著です。
⑥『福岡県警工藤會対策課〜現場指揮官が語る工藤會との死闘』
藪正孝/彩図社/21年
工藤會を壊滅させるためにできた福岡県警工藤會対策課で指揮官を務めた藪正孝さんが、どのように工藤會と向き合ったのか。暴排条例は工藤會の事件をベースに作られて、全国に波及していくんですが、その過程を克明に描いています。
⑦『ルポ外国人マフィア 勃興する新たな犯罪集団』
真樹哲也/彩図社/21年
日本の犯罪はグローバリズム化が進んでいて外国人マフィアが増加。彼らは日本にいる限り、移民的な状態で捕捉しにくい。著者は実際に彼らに会って取材することで、裏社会が外国人マフィアに席巻されている現状をあぶり出します。
──裏社会との繋がりは、どのように構築したのでしょうか。
草下 上京するときに地元の悪い界隈との関係は断ったんですが、東京でクラブに通うようになって、新しい友達ができて。自分の世代はクラブカルチャーを通して、アウトローとの繋がりもできたんですよね。その中には半グレもいましたが、個々の性格をわかった上で接して、ドラッグ遊びなども一緒にしていました。それが『実録ドラッグ・リポート』で生きたわけですが、全体的にゆるかった時代ですよね。私はいろんな人に興味を持って話を聞くので、そうすると「面白い人を紹介するよ」みたいな形で、さらに横の繋がりが広がっていったんです。
──草下さん自身、薬物に依存することはなかったんですか。