いまだにジャニーズ問題がくすぶり続ける中で、当事者たちを中心にジャニーズ告発・批判本が出版され始めている。
ジャニーズに限らず性的搾取をめぐる事件が頻発する今、かつての告発本が大手メディアに黙殺された理由から性的搾取の背景にある構造的問題までを明らかにしていく。
2023年、かつてジャニーズ事務所(当時/現STARTO ENTERTAINMENT)の代表を務めていた故・ジャニー喜多川の性加害問題は国内外において、社会的な関心を強く引きつけたことは記憶に新しい。この〝ジャニーズ問題〟は今なお被害者への補償、メディアや企業側の対応をめぐる議論が飛び交うなど、世間の耳目を集める社会問題となったことから、ジャニーズ告発・批判本も多数出版されることとなった(下記画像参照)。
↑画像をクリックすると拡大します。書影撮影/増永彩子
ジャニーズ告発・批判本は、1988年に元フォーリーブスの北公次による『光GENJIへ 元フォーリーブス北公次の禁断の半生記』(データハウス/88年)を皮切りに、その後も『ジャニーズの逆襲』(ジャニーズ/データハウス/89年)【※著者は中谷良】、『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(平本淳也/鹿砦社/96年)など、80年代末〜90年代にかけて断続的に刊行されていた。また、99年〜2000年代初頭には同問題を報じた「週刊文春」(文藝春秋)の記事をめぐる民事裁判で性加害の事実認定がなされたことで、これらの告発本の信ぴょう性も担保された。しかし、当時この問題が大手メディアで報じられることはなく、結果として、後年までジャニー喜多川による性的搾取を看過し続けるという悲劇を生んだ。
ジャニーズ問題は後に『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』①を上梓するカウアン・オカモトの証言に端を発する形で、23年3月にイギリスの公共放送局・BBCがドキュメンタリー番組『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を放送。ネットを中心に激しい議論を呼び、その結果、ジャニーズ事務所の解体、国会での首相答弁や法改正の議論にまで至った(なお、同問題は00年にも国会で論じられていた)。
また、近年ではジャニーズに限らず、数多くの性的搾取の問題が表面化して世間を騒がせている。23年末には「週刊文春」でお笑い芸人・松本人志による性加害疑惑が報じられ、松本が文藝春秋を相手取っての民事裁判にまで発展。今年11月には松本側が訴えを取り下げたことで、さらなる波紋を呼んだ。国外に目を向けても、9月に音楽プロデューサーのディディことショーン・コムズが、10月には大手アパレル企業アバクロンビー&フィッチの元CEOマイク・ジェフリーズらが性的人身売買の罪で逮捕されるなど、性的搾取をめぐる事件は枚挙にいとまがない。
本稿ではジャニーズ告発・批判本を手がかりに、こうした性的搾取の問題についてひもといていく。
①『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』
カウアン・オカモト/文藝春秋/23年
故・ジャニー喜多川による性加害について、元ジャニーズJr.の著者による自伝的要素を含む告発本。著者はガーシーこと東谷義和のYouTubeで同問題に言及した後、23年4月に日本外国特派員協会で記者会見を行ったことで、大きな社会問題として扱われることになった。
②『ジャニーズ崩壊の真実命を懸けた35年の足跡』
平本淳也、亀井誠/日本ジャーナル出版/24年
ジャニーズ退所後の96年に『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(鹿砦社)を刊行、その後「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表を務めた作家・平本の言をベースにした書籍。かつての告発本出版からBBCの取材、当事者の会をめぐる動向などが、本人の視点から語られている。
③『僕とジャニーズ』
本橋信宏/イースト・プレス/23年
著者は、ジャニー喜多川の性加害に初めて触れた書籍『光GENJIへ 元フォーリーブス北公次の禁断の半生記』の覆面作家を務めた本橋信宏。『光GENJIへ』からの引用を交えながら、同著の刊行をめぐる経緯や内情といった話が中心となっている。
④『おれの歌を止めるなジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』
松尾 潔/講談社/24年
音楽プロデューサーの松尾潔はメディアでの発言により所属事務所との契約を解除され、ジャニーズへの"忖度"事例として話題となった。本書ではその内実を明かす書き下ろしのほか、同氏の「日刊ゲンダイ」での連載、同問題を取り上げた雑誌での鼎談企画などがまとめられている。
⑤『新ドキュメントファイルジャニーズ61年の暗黒史』
小菅 宏/青志社/23年
集英社の情報誌でジャニーズ企画を数多く手がけたという著者によるジャニーズ批判本。性加害だけでなく、ジャニーズをめぐる騒動や事件にも言及しており、“記者から見たジャニーズ事務所の一面史”といった様相が強い。