1999年のデビューから現在に至るまで唯一無二の存在で活躍するラッパー・DABO。
彼は言った――「ヒップホップとは自分がどこから来てどこへ向かう何者なのか。それを知る旅である」と。本稿ではラッパーとして血肉となった5冊をテーマごとに選書してもらった。
①言葉、その可能性
福永武彦『夢見る少年の昼と夜』(72年)
――ひとつ目のテーマで選書されたのは『夢見る少年の昼と夜』ですが、そもそもDABOさんが本を読むきっかけになったこととは?
DABO 本を読むようになったのはラッパーを志してからだから、高校くらいかな。千葉の一軒家に住んでたんだけど、母親が公文式の先生やっててさ、豪邸ってわけではないんだけど、わりと大きな家だったのよ。両親の寝室に作り付けの本棚があって、そこに2人の書物が床から天井まで積み重ねられてたのね。その時代のラッパー、特に90年代は「何その言葉?」ってのを使ったもん勝ちみたいな風潮があったじゃない? Microphone Pagerの「鬼哭啾啾」(97年)とか、いまだにどんな意味か把握してないけど、どんなラッパーであれ言葉の収集癖があってさ。レコードをディグる時代でもあり、言葉もディグる時代。そこで自然と本にたどり着いたんだよね。(両親の本棚から)超ランダムに選んで、読み終わったら本棚に戻す。その頃が人生で一番読書にふけってたと思う。
――親としては我が子が読書にふけるのはうれしいことでしょうね。
DABO 俺さ、小学校の頃から作文コンクールとかで入賞するタイプだったのね。昔から絵も描いてて、周りの友達から「絵、うまいね」と褒められることはあったけど、さすがに小学時代に同級生とかから「文章うまいね」とは言われないじゃない? でも、親は喜んでいたよね。「絵ばっかり描いてるかと思ったら、文章力のスキルも高かったのね」みたいな。文章を書くのが好きだったから、本を読む=活字に抵抗がなかったんだと思う。
――そんな時期に出会ったのが『夢見る少年の昼と夜』だったんですね。
DABO 文庫本を読みふけって、気になる言葉が出てきたらペンで線を引いてた。中にはものすごい知らない言葉も出てきて、「この言葉を使って尊敬されたい!」とか思うんだけど、日々生きていく日常で肉体化されてない言葉を使うのって説得力がないでしょ。その言葉の意味を知って、きちんと血肉になってからじゃないと。それはラップのリリックも一緒で、韻を踏みたいがために肉体化されてない言葉を使った場合、その意味を次のライン、もしくは曲全体のどこかで回収しないと「韻を踏むためだけに使った」って思われて仕方ない。「レアなレコードをゲットして周囲に自慢はしてるけど自分では聴いていません」みたいな、それって本質じゃないよね。
――その本質という部分で、本書から特に影響された部分というのは?