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[人材育成イノベーター]韮原祐介の匠たちの育成哲学【1】

「教育」は「共育」――美大教授と考える “共に育つ”新しい教育論

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[今回のゲスト]
高橋理子(アーティスト、武蔵野美術大学教授)

パーソナリティ心理学を活かして組織と人材の課題を解決するコンサル企業「HRD株式会社」代表取締役・韮原祐介氏が、“人を育てる立場”にある、各界のリーダーやトップをゲストに迎え、人材育成と自己成長をテーマに語り合う新連載。今回はアーティストでもあり、武蔵野美術大学教授でもある高橋理子氏と「教えること」について本音で語り合う――。

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(写真/増永彩子)

韮原祐介(以下、韮原) 僕と高橋さんの出会いというのは、高橋さんの「絵」をあるテレビ番組で見たことからなんですよね。その時は誰が描いたかすらわかりませんでしたが、自分には言葉しか表現のすべがないのに、全然違う形式の円と直線の組み合わせ(画像)だけで本質的な表現をされている作品に、衝撃を受けました。「これはすごいな!」と。

高橋理子(以下、高橋) 私の描いた絵をそういうふうに感じていただけたのがうれしかったです。

韮原 僕、お会いするまで高橋さんがイギリスの国立博物館に永久収蔵された作品をつくっていたり、adidasやFENDI、IKEAなどの仕事もされている、すごい人だということも知りませんでしたから(笑)。

高橋 その後、知人を通じてその話をお聞きして、お会いすることになって。そうしたら、初対面なのに「うちの会社のロゴとかデザインしていただけるんですか?」って(笑)。

韮原 そうそうそう、開口一番に。それこそadidasとかのことを知っていたら、恐れ多くてそんなことお願いできませんでしたよ。だからもう、実際にロゴをお願いできた後は、リテイクとかいくつかの候補から選ぶとかもナシで、一発勝負で、すべておまかせにすると決めていました。

高橋 そもそも私は常にベストのものだけを提案するスタイルなんです。いくつも提案して、自分では一番と思っていないものを選ばれたくないですからね。

韮原 そこまでの確固たるスタンスを持っている高橋さんですが、若い頃にイタリアの巨匠デザイナー、エンツォ・マーリさんから言われたことに大きな影響を受けたそうですね。

高橋 2007年、まだ博士課程在学中で染織の研究をしていた頃ですね。私の展覧会に、飛騨産業という家具メーカーの方がいらして、マーリさんがデザインした家具に合うファブリックを探しているとお声がけいただきました。それで作品を提案したことが最初です。マーリさんとはその後何度かお会いして、付き合いが深まると「お前の作品は日本的すぎる。この先、世界に出ていくことを目指すならこのままでは駄目だ」と怒られました。それまで、一度も日本的なものをつくろうと考えることなく活動をしてきたので、すごく衝撃的な言葉でした。海外の人から見るとそう見えるのかもしれないと。ただ、私は日本的なものを目指すことなく、ごく自然体で表現してきているので、何をどうしたらマーリさんの言う「日本的すぎないもの」が生み出せるのかわからなかった。だから結局、ここまで何も変わらずにきてしまいました(笑)。でも、マーリさんの言葉がなかったら、「円と直線」の組み合わせによる表現を、ここまで追求してこれなかったかもしれません。マーリさんの言葉は叱咤激励だったのでしょう。

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IKEAとコラボレーションしたSÖTRÖNN/ソートロン 限定コレクション。(写真提供/高橋理子氏)

韮原 いろいろなメディアでも語られていますが、やっぱり正円と直線だけで表現するというのが高橋さんの作風なんですよね。

高橋 この2つの要素だけでも、あらゆるものが表現できる。それは、2002年の大学院修了制作の時に気が付きました。具体的なものではなく、できるだけ表面的な意味を感じさせない抽象的なものを表現することで、本質に迫ることができるんじゃないかなと。それで、正円と直線にたどり着きました。

韮原 三宅一生さんとも大きな出会いをしていますよね。

高橋 一生さんは西洋のものである「洋服」というジャンルにおいて、日本から世界へ進出したファッションデザイナーの先駆け的存在でした。ご縁があって一緒にお仕事をさせていただき、お会いするたびに、温かい言葉をかけてくださったのですが、ある時「着物のことはよろしく頼むよ」と。高度成長期、洋装が本格的に定着していった時代だったこともあり、着物を手がけるということをしてこなかったとのことでした。これは、今でも私にとって大切な言葉ですし、これがきっかけとなって、着物という存在の大きさを再認識したような気がします。

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