――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
[今月のゲスト]
松永和紀(まつなが・わき)
[科学ジャーナリスト]
1963年、長崎県生まれ。87年京都大学農学部卒業。89年京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。同年、毎日新聞入社。99年、退社し現職。21年より内閣府食品安全委員会委員。(本記事での意見は、所属する組織の見解ではなく、個人の取材に基づきます)
大問題に発展した小林製薬の紅麹コレステヘルプの食中毒については、現時点ではまだ原因が特定されていない。しかし識者の多くは、健康食品産業が野放しにされる中で、今回のような事故が起きるのは時間の問題だったと口を揃える。では、なぜ十分な科学的エビデンスに基づかない効果を謳った商品が、これだけ大量に売られているのだろうか――。
神保 今回はゲストに科学ジャーナリストの松永和紀さんを迎えて、紅麹サプリが死者まで出す事態となっていることを受けて、健康食品の問題を取り上げます。紅麹サプリの問題は、多くの人がさまざまなサプリメントを摂っているにもかかわらず、サプリの実態をほとんど知らなかったことを浮き彫りにしました。
宮台 日米構造協議が本当は日米構造障壁協議のインチキ役だったことと同じように、言葉のマジックに騙されるという問題があります。松永さんの記事を読むと、問題になった小林製薬の「紅麹」は海外では処方箋の必要な医薬品成分が入っているもので、麹とは違う菌である、ということが書いてあり衝撃的でした。
神保 小林製薬は紅麹が入った健康食品をいくつか作っていたのですが、「紅麹コレステヘルプ」という商品は機能性表示食品として販売する許可を取っていて、これは法律上は薬ではなく食品なんですね。機能性表示食品というのは、実際に政府がその効果にお墨付きを与えたわけではなく、届け出だけで名乗っていいという、それほど大きな意味のあるものではありませんが、そのパッケージには「悪玉コレステロールを下げる、L/H比を下げる」と、あたかも薬のような効能が表示されています。これが機能性表示食品として販売する許可を受けているため、政府がその効果を認めているかのような印象を与えています。
宮台 効果があるのだと騙されます。
神保 実際には、機能性表示食品はその効能に対する具体的な根拠が示されているわけではなく、また政府から認可を受けているわけでもありません。メーカー側が自分たちで選んだ論文を付けて提出すればいいだけだと。
松永 成分について効果を示す論文があれば、それを基に表示できます。ただ、その論文は審査されない。国は一応ガイドラインを示してはいるのですが、学術論文の質はピンからキリまでなので、キリに近いような論文でも届け出すれば、こういう表示ができます。