今年1月から新NISA(少額投資非課税制度)がスタート。それにより個人の資産を運用に回す機運が高まったのか、日経平均株価は史上最高値を更新した。だが、活況の株式市場と対照的に国民は好景気を実感せず。しかも、新NISAでの投資対象に関しては、メディアはこぞって米国株や米国債を推奨する。この異様な状況、我々は何かに洗脳されているのか?
──今回は「新NISA」について聞かせてください。今年1月から新NISAが始まり、その後、日経平均株価は高値を更新し続けています。国策として投資熱を高めようとしていることは明らかで、これこそ国民は洗脳状態に陥っているのではないでしょうか。
苫米地 まず、なぜこんなに円安なのに、株価ばかり上がっているのかという話をしないといけないよね。
──言われてみればそうですね。いまの日本は輸出で儲けてるわけではないんですよね?
苫米地 円安で日本が潤っていたのは高度成長期の話で、いまの日本は内需の国でGDP約591兆円のうち80兆円ぐらいが輸出と輸入で収支トントンなんだよ。ということは、円安だからといって輸出・輸入のどちらかがうれしいというのは本質的にはないんだよね。逆に円安だと燃料費が上がって、あらゆる産業でコストプッシュになるから日本にとってよいことなんてない。ところが、大手メディアはいまだに「円安による株高は当然」とウソを書いてるんだよね。
──円安歓迎ムードを醸成するような政財界の動きには、先生が以前から警鐘を鳴らしていましたね。
苫米地 ところが、俺のXには、いまだに円安が正しいんだっていう意見がドカドカ来る(苦笑)。なので、このへんはまだ言っておかないといけないんだけど。そもそもいま円が安いのは、コロナの時に円を大量に刷ったからだよ。あの時期、一番通貨を刷ったのがユーロで、二番目が円で、三番目がドルなのね。だけど、この比率っておかしいんだよ。ユーロってヨーロッパ全体の通貨だよ。ユーロ圏20カ国の人口は約3億5000万人。アメリカは約3億3000万人。それに対して日本は1億2000万人だよ。3分の1じゃん。なのになぜ、2番目に通貨を刷らなきゃいけないの? これはアメリカから「刷れ」と言われたからなんだ。
──ここでも、アメリカの言いなり……。
苫米地 モノの価値って需要と供給のバランスによるもので、供給が増えれば需要は下がるよね。それは通貨でも同じ。コロナ禍で、実質的に世界で一番通貨を刷った国は日本なんだから、円の価値が下がるに決まってるんだよ。そして三番目に刷ったアメリカは、日本よりも金利が高いんだから、金はドルに集まる。もっとはっきり言えば、日本はアメリカとの関係上、金利を上げられないの。よって円の価値が下がり続ける。ただし、あまりに長期金利が低いと円安が進むばかりだから、いまバイデン政権が0.25%ぐらいなら上げてもいいよって言いだしたわけだ。これのすごいのは、たったコンマ数パーセント上がるだけで、日本のメガバンクは金利収入が増え、千億円オーダーで利益が出るんだよね。
──そんなに!?
苫米地 だから、銀行の株価がガーンと上がったわけ(笑)。もちろん金利が上がれば、外国投資家は利回り投資を円での運用に一部回す可能性は高い。つまり円買いになる。結果、0.25%利上げがあれば、円は対ドルで140円ぐらいになると見てる人もいる。ただ、通貨は流通量がデカすぎるから、長期的にそれが続くかは微妙。外国為替市場でやりとりされている通貨はほんの一部で、実際は大手のファンドだったり、大手の投資銀行の間でのやりとりで動いているからね。だから、本質的な通貨の上げ下げは、その通貨に対する国力で決まる。GDPの塊といえる国という存在と、それに対してどれだけ通貨を刷りましたかという、通貨対国という力関係の中で上がったり下がったりだから、刷りすぎた日本の通貨は、前代未聞の量的緩和の影響が和らぐまでは安いわけ。これがいまの円安株高の理由ね。