――エンタメ各社がIPビジネスに力を入れる中、出版業界においてダントツの成功を収めているのが「ジャンプ」ブランドを抱える集英社だ。IPホルダーとして絶対的な力を有する同社にタブーはあるか? エンタメ業界に詳しいジャーナリストや業界関係者の声から探る。
誓い年、エンタメ業界の中で成長市場としてこぞって叫ばれているのがIP(知的財産)ビジネスだ。IPビジネスでは、マンガやキャラクターといった知的財産をアニメやゲーム、コラボイベントなど、多種多様なメディアで展開することでコンテンツ販売の利益だけでなく、ライセンス使用料といった形で収益を得ることとなる。2022年に経済産業省が発表した資料「コンテンツIPを中心とした我が国のコンテンツ産業の競争力強化に向けた提言」によれば、日本のコンテンツ市場規模は2015年以降は12兆円程度と横ばいで、世界的にも人気を誇る日本のIPをグローバル市場に向けて、より多元的にビジネス展開していくべきとされている。
エンタメ企業各社が世界でヒットする自社IPを生み出そうと躍起になる中、破竹の勢いを見せているのが集英社だ。特に、同社の看板雑誌である「週刊少年ジャンプ」、加えて「週刊ヤングジャンプ」(以下、記載のない限り集英社刊)掲載の作品群は国内外で熱狂的な人気を誇っている。
アニメ映画やNetflixでの実写ドラマ化も成功した『ONE PIECE』や20年に日本映画興行収入成績を塗り替えた『鬼滅の刃』はもちろんのこと、アニメ化によって人気が過熱した『呪術廻戦』『【推しの子】』『SPY×FAMILY』、アニメだけにとどまらず実写化でも『キングダム』や24年1月に実写映画公開を控える『ゴールデンカムイ』などが挙げられる。
ジャンプブランドが国内外で強固な支持を得ている理由について、『日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?』(星海社新書)などの著書を持ち、アニメを中心としたエンタメ産業に詳しいジャーナリストの数土直志氏は、次のように話す。
「もともと集英社の作品群は、北米では00年代半ば頃から集英社、小学館、小学館集英社プロダクションが共同出資するVIZ Mediaが刊行しており、VIZ Media自体がブランドとして確立していました。そして、この過去20年を振り返ってみても『NARUTO』『ドラゴンボール』『僕のヒーローアカデミア』など、キッズからヤングアダルト向けの作品を海外でも大ヒットさせてきました。すると、海外でもこれらの作品が日本では同じ雑誌で連載していたという認識が広がり、ジャンプブランドの浸透につながったのです。
さらに、集英社は19年に海外向けのマンガアプリとして『MANGA Plus by SHUEISHA』をローンチします。このアプリはジャンプの人気作品が無料で、しかも日本での掲載タイミングと同時に読めるというもので、海外におけるジャンプ作品群の人気を押し上げて、ここ数年のジャンプ躍進の立役者であったと思います。
これまで海外での作品人気はアニメから原作マンガにつながる流れが主でしたが、最近ではマンガファーストで海外でも人気の出る作品が続々と現れたという意味で、ブランド力は非常に強くなっています」
数土氏が『MANGA Plus by SHUEISHA』の編集者に取材した記事によれば、同アプリは21年時点でマンスリーアクティブユーザー数は500万を超え、言語によってタイトル数は異なれど英語やスペイン語ほかさまざまな言語に翻訳されて公開されている(「“世界同時ヒット”は実現するのか 『MANGA Plus』が海外でウケている理由」ITmedia ビジネスオンライン)。
また、当然ながらAmazonやNetflixといった動画配信プラットフォームの隆盛も大きい。多くの日本のアニメ作品が多言語でほぼリアルタイムに全世界へ配信される仕組みが出来上がったことで、前述のジャンプ作品群もグローバルな人気を獲得した。
「近年では、『ジャンプ作品原作のアニメなら視聴数が見込める』ということで、配信プラットフォームも高額な配信料を提示して、ジャンプアニメは配信の利益だけで事前に製作費がリクープできていた。連載誌の名前だけでリクープを見込めるというのは『ジャンプ』だけ。さすがに映像配信ビジネスの勢いも落ち着いてきたので今後は状況も変わってくると思うが、とにかく今はジャンプ一強状態だ」(アニメ業界関係者A氏)