インターネットに蔓延り、人々を惑わす幾多の陰謀論の正体を、怪事解明ライターが紐解く――。
2022年……11月28日、「日本初 学校給食にコオロギ導入」というニュースが配信され、反発を招く。
2023年……2月10日、広く農業者に適用される認定農業者制度を、コオロギ向けの利権と誤解させるようなツイートが陰謀論インフルエンサーから発信される。
2月23日、ジャーナリストの有本香氏が「#コオロギ食べない連合」というハッシュタグを発案。ツイッターで何度もトレンド入りする勢いを示す。
3月2日、料理研究家のリュウジ氏がツイッターに「コオロギより牛乳」というツイートを投稿。5万回を超えるリツイートとなる。
(絵/沖真秀)
2023年3月19日。午前の新宿に、旭日旗と共に「コオロギ食わすな」というプラカードが掲げられ、昆虫食推進を批判するシュプレヒコールがこだました。右翼団体による「反コオロギデモ」である。午後には浅草で神真都Qから分裂した団体のデモがあり、こちらでも冒頭から反コオロギ演説が繰り広げられた 。
コオロギ食に反発する言説は、今年2月から急速に出回るようになった。それは試食を行った学校や企業へのバッシングを生み、企業側は法的措置も検討する事態となっている。この騒ぎに右翼団体や反ワクチン団体も目を付け、今では路上でも反コオロギの声が聞かれるようになったのである。一体なぜこんなことになってしまったのだろうか?
もともと、昆虫食への反発自体はコアな陰謀論界に存在していた。「闇の勢力が人工的に食糧危機を作ったうえで、人々にコオロギ食を強制しようとしている」「某カフェチェーンのクリームパイがタニシの卵に似ているのは、昆虫食を普及させようとする陰謀である」といったものが代表的である。
この段階ではごく一部の陰謀論者に限定されていた反コオロギ感情はしかし、昨年11月に入って一般にも広がることとなった。「徳島県の高校で、給食にコオロギが導入された」という記事がウェブメディアに掲載されたのだ。その後の報道で、実際には「授業の一環で調理したコオロギ粉末を、希望者が食べた」試食会に近いものだったことがわかったものの、当初はそこを省略して「給食」と記載されていたため、「一般給食でコオロギが提供された」と捉えた人々が続出した。
さらに今年2月には、牛乳廃棄問題とコオロギ食推進を接続して「政府はコオロギ食を推進する一方で、牛乳廃棄問題を起こしているのはおかしい」という言説が発生し、「コオロギ食に6兆円もの補助金が使われている」というデマや、各種取り組みのまとめ画像による「コオロギ食に巨大な利権が存在するのではないか」という疑念が出回ったことで騒ぎが加速した。SNS上では保守派のジャーナリストによる「コオロギ食べない連合」というハッシュタグが作られトレンド入りするまでになり、フォロワー数100万人レベルのインフルエンサーや芸能人も言及する騒ぎになってしまい、挙げ句の果てには、コオロギを使ったパンを製造・販売しているPasco(敷島製パン)の不買を呼びかけるツイートが1万回もリツイートされる事態となった。