――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった? 生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉
最初からわかっているが、結局、自己憐憫の内輪受けでしかないのだ。それでも出版業界にこだわっている筆者もまた怠惰なのだが。
職業柄、気になったので、滅びゆく成人向け雑誌の世界を描いた『グッドバイ、バッドマガジンズ』という映画を見た。大洋図書などをリサーチした出版業界の描写は丁寧だが、正直、筆者が現場を去った2005年頃の状況と大差ない。結局、あれから20年近く延々と滅び続けていたのか、ということになる。もっとも、肝心のストーリーは典型的な単館系日本映画というか、頭でっかちな女性編集者の自意識の話なので、どうにも退屈だったが。
そのくせ、隣のBL系部署を爬虫類を見るような視線で描いていることも引っかかった。確かに、筆者が仕事で当時の最大手の編集部を表敬訪問した際も、飛行機会社の攻め受けカップリング(妄想)を延々と話していた特異な職人集団ではあったが、わざわざ軽蔑のカットを入れる必要があったのか。まあ、BL系部署だけが生き残ったことへの恨みなのだろうが、男性向けエロマンガを作っていた頃も実写のエロ本部署とマンガ系部署は互いに敵愾心を抱いていた。実はサブカル対オタクだったのかもしれないが、筆者はマンガに限らずサブカル系雑誌全般のマニアだったから、実写系の編集長たちにはかわいがられた。しかし、それを不快に思う編集者もいて、社内で殴られたこともある。そんなことばかりやっていたから読者がセグメント化され、業界全体が衰退したのだが、残された読者や編集者は受難の恍惚に酔いしれ、サンドバッグになる「表現の敵」ばかり求めている。滅びゆくカルトはいつもそうだ。
では、2023年の現在はどうかというと、成人向け雑誌どころか普通の出版業界も滅びの笛を吹いている。1月に製紙各社が15%以上の第3次用紙値上げを行い、文庫ですら定価1000円超えやページ削減の可能性が出てきたからだ。一方、書店数も全国で8000店を切り、初刷部数は20年前の2~3割まで減少している。そのため、いくつかの文庫レーベルでは紙書籍の発行点数を削減し、電子書籍メインの流通へ切り替えることが決まった。電書で買う習慣のない高齢者向け時代小説などは紙の流通を維持するしかないが、実売3000部以下という作品も出てきた。