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小原真史の「写真時評」【116】

動物の生殺与奪(下)

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――過去から見る現在、写真による時事批評

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ハインリヒ・ヒムラーと彼の娘(写真:ullstein bild/ullstein bild via Getty Images)

ベルリンとミュンヘンの動物園で絶滅動物をよみがえらせようと試みたルッツ・ヘックと弟のハインツ・ヘックの兄弟は、ナチスの高官ヘルマン・ゲーリングとも近しい関係にあったという。彼らは既存の牛を交配させて、かつてヨーロッパにいた「オーロックス」を創造しようとしただけでなく、ベルリン動物園の中に北ドイツ(ニーダーザクセン)風の農家を作ってそこで動物を飼育し、「ドイツ動物園」なる施設を設けた(溝井裕一『動物園の文化史 ひとと動物の5000年』勉誠出版)。つまり、都市部では失われてしまった純粋なドイツ的な原風景を今によみがえらせようと試みたのである。こうした試みが古代ゲルマン文化と自然の復活を目指したナチスの企てと近親的なものであったことは、いうまでもない。

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《顔の高さの「科学的」検査》ドイツ、1937年、アメリカ合衆国ホロコースト記念美術館蔵 COURTESY OF BILDARCHIV PREUSSISCHER KULTURBESITZ, BERLIN, GERMANY. 
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《頭蓋骨の幅の「科学的」検査》ドイツ、1937年、アメリカ合衆国ホロコースト記念美術館蔵 COURTESY OF BILDARCHIV PREUSSISCHER KULTURBESITZ, BERLIN, GERMANY. 

ナチスの「純血性」への強迫観念が人間にまで及んだことは、よく知られている。SS(ナチスの親衛隊)長官兼ドイツ警察長官だったハインリヒ・ヒムラー(写真1枚目)は、オカルティズムや疑似科学に傾倒する人物だった。1935年にヒムラーは、高等人種とした「アーリア=ゲルマン人種」の人口増加と「純血性」の確保を目的とし、福祉機関「レーベンスボルン(生命の泉協会)」をベルリンに設立した。これは第1次大戦で多くの戦死者を出し、その後の世界恐慌のあおりで出生数の急激な低下に悩まされていたドイツが、ゲルマン民族の増加を企図してつくった未婚女性の福祉施設で、レーベンスボルン計画ではナチスが考える「アーリア人」の条件を満たすとされた金髪碧眼で長身の男女の「交配」が推奨された(ナチスの定義する「アーリア人」は曖昧で、北方人種程度の意味に解する場合もあれば、神話的な響きを持つこともあった)。ドイツ以外でも占領下のフランスやベルギー、ノルウェーの女性とSS隊員・高級将校との乱交、あるいは拉致による強制的な妊娠の結果、父親のいない子が多数「生産」され、各地の母子保護施設に送られた。ナチスによる強制収容所が「死の工場」としての役割を担ったとすれば、それとは対照的に「赤ちゃん工場」として「ヒトラーの子どもたち」を世に送り出したのが、レーベンスボルンだった(写真5枚目)。

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