――1990年代からゲイ男性の間で流行したとされるセックスドラッグの「ラッシュ」。2007年に指定薬物となった後、ラッシュでの逮捕が報じられると、にわかにゲイとの関わりが人々の口の端に上るようになっている。果たして、ゲイとドラッグの関係性とはどのようなものか? 調査データや識者の言からその実情を探る。
◉ラッシュの使用経験率は22.9%
データから読み解くゲイとドラッグの関係性
本記事次ページからの本文でも取り上げた通り、ゲイ、バイセクシュアル男性(トランス男性などを含む)を対象とした「第一回LASH調査」のデータを詳しく紹介していく。また、ゲイたちが使っていたとされるセックスドラッグについても解説。
(グラフは、2016年実施「LASH調査」報告書[有効回答数:6921人]を元に編集部が作成 データ提供/ぷれいす東京)
ゲイの間で流行した 「RUSH」と「ゴメオ」とは?
RUSH(ラッシュ)
狭心症薬としても用いられる化学成分・亜硝酸エステル類を主成分としたもの。「ラッシュ」という名称はアメリカのパック・ウェスト・ディストリビューティング社が販売する商品名で、同様のドラッグは海外では「Poppers」(ポッパーズ)とも呼ばれる。揮発成分を鼻などから注入することで、酩酊感や性的興奮を高める作用があるとされる。日本では、2007年に主成分の亜硝酸イソプロピルなどが医薬品医療機器法(旧薬事法)の指定薬物とされ、業者による輸入や販売が違法に。14年には同法改正によって、個人での所持や使用、購入が違法となり、15年には関税法改正により「輸入してはならない貨物」となっている。現在も厳罰化をめぐっての是非を問う声は大きい。
5-MeO-DiPT(ゴメオ)
トリプタミン類の化学物質で、通称「ゴメオ」または「フォクシー」。幻覚剤の一種であり、性的な興奮も得られるとされている。かつては脱法ドラッグの一種とされていたが、2005年に強い幻覚作 用を及ぼすとして、AMTと合わせて麻薬及び向精神薬取締法に基づく麻薬に指定された。副作用や有害性の高さから、欧米各国でも規制の対象となっている。
【1】薬物の目撃/被誘惑/使用経験
(有効回答数:6921)
誰かがドラッグや薬物を使用しているのを見たことがある「薬物使用目撃経験」が41.4%。これまでに使用を勧められた「被誘惑経験」が36.1%、そして実際に「薬物使⽤経験」があるのが6921人中1756人で25.4%という結果になった。本文でも言及している通り、「ぼっき薬・ED薬」が含まれているのには留意する必要がある。また、使用経験のある薬物の種類別内訳としては、ラッシュが22.9%、ED薬が14.8%、脱法ドラッグが9%、ゴメオが8.7%、大麻が5.4%で、覚醒剤は3.5%、MDMAは2.2%となっている。
【2】ドラッグ・薬物を使う理由
(有効回答数:6921)
本項目は、「LASH調査」サンプル数6921人が全員回答となっており、設問では「一度も使ったことがない人は、想像で答えてください」とされているため、薬物使用の理由としてイメージされるものも多く含まれている。セックスドラッグとしての効果を期待する回答は「そう思う」「ややそう思う」を合わせて80%近いが、『現実からの逃避、精神的不安を軽減』という理由も7割近い数字となっている。「自己治療仮説」を裏付けるようなデータに見え、注目に値する。
【3】ドラッグ・薬物を初めて使用した年齢
【4】ドラッグ・薬物を使用した状況
本文で生島氏が指摘するように、初めての使用年齢は20代までが8割を超えている。また、使用した状況も「相手から誘われて」が71.9%で、「自ら望んで」使用したのは2割ほどにとどまっている。また、使用場所の上位は「セフレの家」が21.0%、「ハッテン場」が18.6%、「ホテル」が16.2%。使用したときに一緒にいた人物との関係性としては、「その場限りのセックスの相手」が44.3%、「セフレ」が30.9%、「パートナー」が13.3%となっている(項目は複数選択可)。これらのデータからも、薬物を経験する契機としては性的場面が顕著であるようだ。
【5】10代の悩みやストレスを相談する人物
国民調査の結果と比べると「家族」「上司や先生」にも相談しづらく、「誰にも相談できない」が24%を占めるなど、自分の中で苦悩するしかない10代のゲイ男性が多くいることがわかる。国民調査結果との乖離は、10代だけでなく「LASH調査」回答者全般にも見られる。悩みやストレスの内容は、「家族との人間関係」が36.6%、「家族以外との人間関係」が52.5%、「恋愛・性に関すること」が61.5%、「結婚」が25.6%、「いじめ、セクシュアル・ハラスメント」が7.8%という結果に。