街の花屋が大麻を育てる――。これまで現実でもフィクションでもありそうでなかった「大麻栽培」の物語が注目を集めている。しかも、このマンガはテーマだけではなく、ひとつひとつの描写も現実的だ。一体どこから着想を得て、物語を描き進めているのだろうか?
(写真/林哲郎)
平凡な花屋の店主が家族の生活と赤字経営の店を守るため、起死回生の一手として「大麻栽培」に手を出す……。
そんな異色のクライムサスペンスマンガ『東京カンナビス特区 大麻王と呼ばれた男』が「月刊コミックゼノン」(コアミックス)で連載され、ネットを中心に話題を呼んでいる。
主人公の千東森生は昔からの夢だった自分の花屋を持ったが、経営は火の車だった。そんな中、同窓会で再会した大学時代の親友・加賀山から植物を育てる才能を見込まれ、「世界で最も金になる植物」である大麻の違法栽培を持ちかけられる。
犯罪のリスクを考えて一度は断った森生だが、不幸な事故で窮地に追い込まれ、妻子のためにも金を稼がなければと大麻栽培に手を染め、後ろめたさを感じつつも才能を発揮していく。
半グレなども巻き込んだ騒動に発展するストーリーは、余命宣告された化学教師が家族に財産を残すため、麻薬の密造と売買に着手するドラマ『ブレイキング・バッド』を彷彿とさせるが、大麻栽培を主題にしたマンガ作品はほかに類を見ない。いかにして前代未聞の大麻サスペンスが生まれたのか? 作者の稲井雄人氏と担当編集者の田中剛志氏に話を聞いた。
――植物の栽培のプロである花屋が大麻を育てるという話は「ありそうでなかった」という盲点でした。どのようにして、このストーリーが生み出されたのでしょうか?
主人公、千東森生が東京の郊外で経営する花屋の月の手取りは約6万2000円。© 稲井雄人/コアミックス
稲井雄人(以下、稲井) そもそもは、編集部からの持ち込み企画だったんですよね。
田中剛志(以下、田中) 『ブレイキング・バッド』が好きだったので、そのエッセンスを抽出して何かできないかなと思いまして。同作は化学合成でドラッグを作っていく話ですけど、それを植物で、大麻で――となったときに面白い話ができるのではと思って、稲井さんにお声がけしました。
――かなりトガった企画だと思いますが、最初に聞かされたときの印象は?
稲井 ぶっちゃけていうと、僕はサスペンスものを描いたことが全然なかったので、「なんで僕にこの企画を持ってきたのかな?」と(笑)。僕自身は大麻だけじゃなく裏社会うんぬんに詳しくないですし、それに通ずる物語を描いたこともなかったので、わりと面喰らいましたね(笑)。
――「ゼノン」編集部から作家に企画を持ち込むことは多いのでしょうか?
田中 弊社の社長【編注:「週刊少年ジャンプ」5代目編集長の堀江信彦氏】の教えに「手ぶらで行くな」というのがあり、漠然と「なんか面白いの描いてよ」みたいなことはなるべく言わないようにしていますね。企画をきっかけに話をさせていただいて、作家さんご自身のやりたい企画などをお伺いするようにしてます。