――『リリース』『神前酔狂宴』といった衝撃作で名を上げてきた小説家の古谷田奈月。この時代の社会問題が詰め込まれた新作『フィールダー』で何を“実践”しようとしたのか?
(写真/喜多村みか)
「そもそもの始まりにあったのは、“動物と人間の関係に対する違和感”でした」と、小説『フィールダー』を執筆した古谷田奈月。人が動物を愛で、家族として暮らすペット文化には、古代から始まる長い歴史がある。良いとされることや避けるべきことの線引きは時代や場所で変化しながら、おおむね肯定的に受け止められてきたが……。
「幸福なものとして社会に根付いたこの文化には、人間の側のみが選択して動物をどこからか連れてきているという一方的な構図があります。ペット文化に限らず、かわいいと対象を愛でることもそう。ポジティブに受け入れられながら、グロテスクな構造を内包するものがたくさんあることに気づいたところから、この小説は生まれました。違和感を抱く、でも言葉にしづらい。SNS的な言い方では軽率に陥りかねない。自分の抱えた問題意識を表明するためには、これだけの文字数が必要でした」
300ページ超えの長編。総合出版社に勤め社会派冊子を編集する橘泰介と、児童福祉の研究者・黒岩文子を軸に進む小説には、児童虐待、小児性愛、ソシャゲ中毒、ルッキズム、希死念慮、ネット炎上、社内派閥抗争、猫を愛すること……現代の日本社会を象徴するがごとき文字列が躍る。スマホゲーム『リンドグランド』がプレイされ、ドラゴンとの闘いが繰り広げられ、セクハラが思い出され、マスクに顔半分が隠された小説世界に、社会と時代が写し取られる。
「私が今感じている問題が時代を反映したものだから、必然的にこういう形になりました。コロナについては今後も長く付き合い続けるのではないかと思うし、成年年齢が18歳に引き下げられたことやSNSの空気感なども含め、今、小説を書く上で避けては通れない要素だと感じながら、でもどこへ着地するのか想像もつかないまま、なんとか道筋を見つける作業でした。扱ったテーマは、身近にあるけど自分を当事者といえるものばかりではない。それでも、書くことでその存在を確かにしていく面があったと思います」