コロナ禍に突入してから、海外旅行も気軽に行けなくなった。その結果として、代理店や航空会社などの旅行業界は、ここ数年非常に苦労してきたといわれている。
そんな中、海外旅行のお供である『地球の歩き方』(学研プラス)は近年、『世界のすごい巨像 巨仏・巨神・巨人。一度は訪れたい愛すべき巨大造形を解説』など海外の「とあるテーマ」に特化した「旅の図鑑シリーズ」や、シリーズ初の国内版『地球の歩き方 東京 2021〜2022』(以下、『東京』)とその続編『地球の歩き方 東京 多摩地域 高尾・御岳・奥多摩と全30市町村を完全網羅』(以下、『多摩』)、さらに『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方〜超古代文明 オーパーツ 聖地 UFO UMA』(以下、『異世界』)や『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』など、他社のコンテンツとコラボしたガイドブックを多数ヒットさせている。
旅行ガイドブックの老舗『地球の歩き方』は、いかにして現在の在り方にたどり着いたのだろうか? 編集室の3人に聞いてみた。
まず、話を聞いたのは『多摩』を担当した斉藤麻理氏。コロナ禍に入るまではマレーシア、韓国、台湾など、当然ながら海外を担当し、2020年には『東京』も手がけてきた。
『地球の歩き方 東京 多摩地域 高尾・御岳・奥多摩と全30市町村を完全網羅』(学研プラス)
その続編が『多摩』というわけだが、なぜ京都や北海道など定番の観光地ではなく、北は奥多摩から南は町田の多摩地域という、マイナーな場所を選んだのだろうか?
「国内のガイドブックを今後、どのように展開していこうか話し合っていた際、『東京』の読者アンケートで『23区ばかりで、多摩の情報が少ない』という声がたくさん届いていることを知ったんですね。だったら、『多摩地域だけで出そう』という話になったのですが、そのアンケート結果を知らない社員や、販売部の上層部からは『多摩ってどこ? 多摩市もあるけど、どこまでが多摩地域なの?』という反応でした」(斉藤氏)
近年、再開発の進む立川や「住みたい街ランキング1位」の吉祥寺などの、新名所やグルメに絞ったタウン誌、もしくは高尾山や奥多摩のハイキングガイドなどはあるが、「多摩地域」というくくりで、東京の西側全体を網羅したガイドブックはそうそうないだろう。
一方で、多摩地域の住民が同書を読んでみると、吉祥寺の「純喫茶ゆりあぺむぺる」、「サッポロラーメン国立店」のスタ丼、福生の「ブルーシール」といった具合に、最新トレンドというよりも、「定番スポット」が多数掲載されているという意見も聞こえる。
「多摩地域という範囲が広いこともあって、偏りが出ないように王道寄りのガイドブックとなっております。これは本書だけではなく、『地球の歩き方』の国内シリーズの指針であり、コンセプトなのですが、はやりモノや最新トレンドではなく、その地域で長年愛されている老舗のお店を優先的に紹介しています。はやりモノを追いかけだすとキリがないので、そういうのはインターネットやSNSに任せて、我々は『その地域を訪れた際に、必ず押さえておくべき場所を紹介する媒体』を基本としています」(同)
それにしたって、同書は吉祥寺や高尾山など、都民であればだいたいの人が知っている有名どころだけではなく、小金井市や東京都唯一の村である檜原村など、観光地でもない地域の見どころまでもが紹介されている。
「多摩といえば奥多摩や高尾山が観光地としては有名で、多くの人が訪れますが、そういった情報が載っているガイドブックはほかにもあります。だからこそ、高尾山から1時間程度で行けるような、立川市、八王子市、府中市なども満遍なく紹介し、『多摩地域全体の魅力を取り上げよう』ということを念頭に置いて作りました」(同)
「多摩」というだけで、若干のB級スポット巡り感も否めないが、そこは王道路線の『地球の歩き方』。3月に初版2万部で発行されて以来、毎月増刷で、7月中旬の累計発行部数は5万4000部なのだとか。
「書店売り上げ上位店は国立、立川、八王子というように、圧倒的に多摩地域で売れています(笑)。読者からのアンケートはすでに数百件以上も届いていて、『あのお店が入ってない』といった要望だけではなく、『多摩を紹介してくれてありがとう』といった声もいただいております。
ただ、実は本書はあまりにも販売部が懐疑的な見方をしていたので、1回限りの『永久保存版』なんですね。海外版の『地球の歩き方』は一定期間がたつと改訂版が出るのですが、『多摩』は年度が入っていないんですよ……。でも、あまりにも読者からの要望が多いので、もし改訂版が出る際には、多摩の皆様の意見をいろいろと入れたいと思います」(同)