――近年は木彫のみならずドローイング作品でも耳目を集め、世界を股にかけて活躍するアーティスト・TAKU OBATA。NFTへも参入を果たし、新スタジオも構え、向かうところ敵なしの彫刻家の芸術的思想に触れる。
(写真/若原瑞昌)
本誌2016年8月号以来の登場となる彫刻家のTAKU OBATA(小畑多丘)。高校卒業後に通った美大専門の予備校で彫刻(粘土)の魅力を知り、3浪の末に入学した東京藝術大学(以下、藝大)で木彫の「美しさ」と「難しさ」に触れたことで、本格的に〈B-BOY〉をモチーフにした木彫の制作を開始する。国内での活動から海外での個展を経て、ヒップホップ・プロデューサーのスウィズ・ビーツやシンガーのザ・ウィークエンドといったセレブリティまでもが彼の作品を所有するに至るなど、今では〈B-BOY彫刻家〉として世界的に知られる存在だ。また立体作品だけでなく、個展では映像や写真作品なども発表し、さらにこの数年はドローイングにも力を注ぎ、彫刻とドローイングの2つが活動の大きな柱になっている。
コロナ禍にも関わらず、日本橋馬喰町のギャラリー「PARCEL」にて2年の間に異なる2つの個展を開催し、それぞれが大きな話題を呼ぶなど、その制作意欲と注目度の高さが衰えることはない。今回は埼玉県にある彼の自宅兼アトリエと新設したスタジオに伺い、約3時間にわたるロングインタビューを敢行。個展での手ごたえや、最近始めたばかりのNFT作品などについても話を聞きながら、彼の作品の裏にあるB-BOYならでは【筆者註:本文中に出てくる〈B-BOY〉という言葉は、いわゆる“ヒップホップ好き”の総称ではなく、本来の意味であるブレイキン(=ブレイクダンス)を踊るダンサーおよび、ダンススタイルそのものを指しています】の思想についても迫ってみた。
2018年に開催されたナイキのダンス/ラップ・バトルのイベント『BATTLE FORCE』にて展示された「AIR FORCE 1」の木彫。色は塗らずオイルのみで仕上げた作品だが、B-BOY魂があふれんばかり。(写真/若原瑞昌)
──まず、今春に開催した個展『B-BOY REVENGE 2022』についてお聞きしたいんですが、巨大な木彫のB-BOY(Takuspe B-Boy 2012)をメインに据えた展示を行った経緯を教えてください。
TAKU OBATA(以下、T) その木彫は2012年に山梨の「中村キース・ヘリング美術館」で展示した個展用の作品なんですね。期間は2カ月間、美術館の屋上、かつ夏の強い日差しを浴びながらの展示で、学芸員をずっと配置するわけにもいかない、台風が来るかもしれない、倒れてしまったら危険だということで、寝てるポーズになったんです。
──これまでの作品の中でもかなり大きいほうですよね?
T 今までの作品で一番デカいです。横が2メートル35センチで、立ったら3メートルちょっと。その後、作品はシンガポールのグループ展や新宿のアートフェアでも展示して、14年にはニューヨークで行った個展にも展示したんですが、いくつか作っていた等身大作品の中でも、これだけが売れなかったんですよ。売れ残ったら海外のギャラリーが自費で作品を送り返さなきゃいけないんですけど、送料も高いのでなかなか返却してくれなくて(笑)。そうこうしているうちに8年も経ってしまいました。
──それを今回ようやく取り戻したと。
T 今回の個展を開催したギャラリーの「PARCEL」がお金を捻出してくれたんですが、自分の元に返ってきた意味も込め『B-BOY REVENGE 2022』というタイトルにしました。作品は分解式で13ピースに分かれていて、それを組み立てて展示するんですが、美しく見せるためには本来はビス止めをし、穴や隙間には全部パテ埋めしてから色を塗る作業が必要なんです。でも、もう10年前の作品で、木彫特有の歪みも出てくるし、同じ作業をするのも違うなと思い、今回はビス止めもパテ埋めも塗装もせず、あえて組んだままの状態で展示しました。その代わり、その作品のために作ったマケット(粘土で作った小型の模型)やスケッチも加えて。さらにナイキのCM動画のために描いた5年前のドローイングと、今回展示した木彫を色と形でオマージュして描いたドローイング作品も展示しました。