――「山谷は『日本の将来の姿』」──介護ジャーナリストがとある夫婦を追いながら、日本有数のドヤ街で発見した独自の「地域包括ケアシステム」とは?
(写真/西田周平)
「取材対象者とは、友達になることが多いです。本を書いたけど、その後、会わなくなるのは、人として良くない気がして……」
『マイホーム山谷』(小学館)で第28回「小学館ノンフィクション大賞」を受賞したベテランの雑誌記者、末並俊司氏は話し相手を油断させる親近感に溢れていた。
彼の受賞作『マイホーム山谷』の中心人物となる山本雅基氏と妻・美恵さんは、民間ホスピス「きぼうのいえ」を創設した夫婦。2002年に日本有数のドヤ街として知られる東京・山谷に創設された「きぼうのいえ」は、路上生活者や病人などを集めた「終の住処」としてメディアでもたびたび取り上げられた。
さらに、山本夫妻は日本映画の巨匠・山田洋次監督の映画『おとうと』(2010年)のモデルとなり、「余命に限りがある人々の最期の生活を家族のように寄り添う理想のケア」は同じ年に『プロフェッショナル』(NHK)でも特集される。山本氏は“山谷のシンドラー”とも呼ばれた。
「14年から僕が山谷で炊き出しのボランティアに参加する中で、山本氏の存在を知りました。当時の僕は父を亡くしたばかりでうつ状態だったので、山本氏に『残された者はどう生きればいいのか?』と、救いを求めるように連絡しました。彼は何百人も看取った方なので、これから僕が生きる上で、指針となるような言葉をもらえる気がしたんですね」
しかし、招かれた山本氏の自宅には床にこぼれた酒の臭いが充満し、口を開けば「きぼうのいえ」のスタッフへの恨み辛みを乱暴な言葉で罵るように語る。聖人とは程遠い山本氏の姿があった。