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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第164回

『ドリームプラン』オスカーを得たウィル・スミスの強すぎる“父権”

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――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。


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『ドリームプラン』

ある女性のテニスプレイヤーが4万ドルを手に入れるところを目にしたリチャードは、娘をつくってテニスを教えることにした。お金もコネもない彼は「ドリームプラン」なる計画書を作る。

監督:レイナルド・マーカス・グリーン、出演:ウィル・スミス。全国公開中。


「リチャードは家族の守護者でした」

先日のアカデミー賞授賞式でウィル・スミスは『ドリームプラン』で主演男優賞を受賞し、壇上でそう言った。リチャードとは、『ドリームプラン』の主人公リチャード・ウィリアムズ。テニス選手として、グランドスラムのみならず、オリンピックでも優勝するゴールデンスラムさえ達成したセリーナ&ヴィーナス姉妹を育てた父親だ。リチャードはある日、テレビを見て、ある女性プロテニス選手が4日間の試合で賞金4万ドルを稼いだと聞いて、妻ブランディに言う。「これから子どもをつくってテニス選手に育てよう!」。

そして、これから生まれる子が世界一のテニス選手になるまでの80ページくらいの計画表を書く。それが邦題の『ドリームプラン』だ。まだ子どもが生まれていないのも驚くが、彼はテニスの素人なのだ。

「テニスなんかやったことないさ。俺は南部の黒人だからKKKから逃げるのに忙しくて」

テニスは金持ち白人のスポーツだ。コーチを雇う金もない。そこでリチャードは見よう見まねで幼い娘たちにテニスを教える。リチャードは夜警、ブランディは看護師として働きながら昼夜交代制で。近所の人から「児童虐待だ」と警察に通報されて逮捕されるほど。虐待ではないが、リチャードの育て方はまさにスパルタ。父の命令に対して娘たちは必ず「イエス、パパ!」と答える。テニス選手として成功してインタビューされた時の予行演習で娘たちに「あなたにとって人生の中で一番の親友はどなたですか?」と質問すると2人は「パパです」と答える。その強すぎる父権はまるで王。だから、この映画の原題は『キング・リチャード』。

その父権は時に暴走する。ウィリアムズ家が暮らすのはロサンゼルスのコンプトン。全米でも最悪の犯罪地帯。テニスをするのはギャングだらけの公園のゴミだらけのコート。麻薬の注射針も落ちている。

当然、ギャングたちがちょっかいを出す。娘たちの前で殴られたリチャードは、拳銃をつかんでギャングどもを殺しに行く。殺さないものの、これはリチャードの自伝に書かれている。

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