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ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってから、ネットには各陣営のプロパガンダから、アクセス稼ぎのフェイクニュースもどき、ウケ狙いのイタズラなどなど、真偽不明の情報があふれかえっている。その前からもトランプ前大統領とか新型コロナウイルスと、そのワクチンをめぐる騒動とかで、なんだかネットが常にざわついていて、気分が落ち着かない人も多いはず。こんな有り様の今のネット、もうちょっとどうにかならないの?
[今月のゲスト]
鳥海不二夫(トリウミ フジオ)
東京大学大学院工学系研究科教授、博士(工学)。2004年に東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了、2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授を経て,2021年より現職。計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事。情報法制研究所理事、人工知能学会編集委員会副編集委員長などを務める。
●ジャンルごとのフェイクニュースへの接触状況
直近の1ヶ月の間でフェイクニュースを見かけたことがある方に伺います。
直近の1ヶ月の間で、あなたは どのようなジャンルのフェイクニュースをみたことがありますか。
(出典)株式会社野村総合研究所「『フェイクニュース』に関するアンケート 調査結果」2021年4月12日より
クロサカ 今月のゲストは、東京大学の鳥海不二夫教授です。鳥海さんは、Yahoo!ニュース個人でSNSや炎上に関する分析記事を書かれて、よくバズっているので目にされたことがある人も多いはず。そもそも何の研究をされているんですか。
鳥海 計算社会科学という分野の研究をしています。
クロサカ 炎上やフェイクニュースの専門家ではないんですね。
鳥海 あくまでも研究のネタとして使っています。計算社会科学の大元は社会科学で、この分野の歴史は古く、もともとはインタビューであったりアンケートであったりといった、アナログな手法で情報を取得し分析を行っていました。しかし、21世紀以降はインターネットやIoTなどの発展によって、あらゆるものがデータ化されていったんですね。今までは、社会を見るための社会学であるとか、人々の心を見る社会心理学といった分野でも大量のデータが道具として使えるようになってきました。こうしたデータによって取れなかったものが得られるようになり、従来とは異なる視点から社会への理解を深めていくことができるのが、計算社会科学の醍醐味です。
クロサカ 私は前職ではシンクタンクにいたので、アンケートなどの調査を行ったことがあります。そうした調査では取れないものが、データによって見えるとは、具体的にどういうことなんですか。
鳥海 わかりやすいのが、2000年に出たツイッターに関する有名な論文です。アメリカのツイッターユーザーが、どんなときにポジティブな気分になっているのか1時間ごとに分析したもので、週末は基本的に多くの人がポジティブな気分なのに、日曜日の夕方を過ぎるとどんどん気分が下がっていくという結果があって、アメリカにも日本でいう「サザエさん症候群」があるということが分かりました。従来のアナログな調査では、夜中に「今の気分はどうですか?」なんて尋ねるのも、答えるのも難しいです。でも、ツイッターなら多くの人が勝手に起きていて、勝手にツイートしてくれているので、従来の手法ではできなかった調査だと思います。
クロサカ 確かに、こちらがアクションしなくても勝手にデータが出てくるのは、従来とは異なりますよね。SNSのほうが偏りは減って、より人々の自然な振る舞いが見やすいのでしょうか。
鳥海 そこは議論が分かれるところで、従来の社会学や社会心理学をやっていた人は、利用者バイアスが大きいこともあり、必ずしもSNSのデータのほうが良いわけではないと言います。ただ、計算社会科学には大きなメリットがあって、従来では不可能な大量のデータを使えることです。従来のアンケート調査は、統計的に処理することによって、少ないサンプル数でも有意な結果を導くことができましたが、どうしても小さすぎて見えないものもありました。たとえば、世の中の人で1%しかいないことについては、100人の被験者を集めてもひとりのデータしか取れません。でも、100万人のデータからなら1万人分のデータを取得でき、統計的にも分析しやすいですし、従来の手法では埋もれていたかもしれない部分が見えるようになるという強みがあります。