――「そろばん」といえば昭和世代の習い事のイメージで、今や下火……? と思いきや、実は令和の今でもベスト10に入る人気の習い事であることが判明。テクノロジーの進化とは対極に位置するような印象すらあるが、現在のそろばん教室ではどのような授業が行われ、アップデートが図られているのか。関係者に話を聞き、その実態に迫った。
そろばん教育もオンライン化が進み、子どもたちだけでなく、大学生や成人になってから受講、再受講を希望する人も増加しているという。
英会話にプログラミング、ボルダリング──時代が変われば、子どもの習い事も変わりゆくのが常。だがそんな中、昭和の習い事のイメージが強いそろばんが、いまだ不動の人気を誇るという。2019年にバンダイが行った調査では、そろばんは「子どもが今習っている習い事」の8位にランクインしているのだ。早速、そろばん歴3年の小学5年生の女の子に話を聞いてみた。
「ママが昔通っていたみたいで『行ってみたら?』と言われ、算数は嫌いだったけど、計算ができるようになるならアリかと通い始めました。クラスの男子から『そろばんダセぇ』とか言われて恥ずかしかったけど、続けていたら楽しくなってきて。計算は早くなったし、買い物に行ってもいくら以内に収まってるかとか、すぐわかるようになった」
確かに、そろばん経験者の親が子どもに勧めるケースは多いかもしれない。だが、それ以外にもそろばん人口が増えた理由があるようなのだ。全国珠算教育連盟によると、1973年に650万いた珠算学習人口は、電卓やパソコンの普及で09年に49万まで落ち込んだものの、そろばんが持つ子どもの能力開発に注目が集まり、18年には88万にまで伸びたという。同連盟の理事を務める丹野知行氏が話す。
「『今どきそろばん?』と思われる方も多いかと思いますが、地域によって400人弱の生徒を抱える教室や、都内においては高額な賃料を毎月支払えている教室もあるくらいです」
人気をV字回復させた、そろばんにおける“子どもの能力開発”とはどんなものなのか。真っ先に浮かぶ計算力に加え、実は集中力、記憶力、忍耐力、洞察力なども養えるのだという。また、通常の計算では左脳しか使われないが、そろばん熟練者の暗算では右脳も使われているのだ。
「小学校2年生くらいから右脳の働きが低下すると言われていますが、その前に珠算式暗算を学ぶと、その働きを低下させず伸ばすことができるんです」(丹野氏)
1897年創業のそろばん老舗メーカー「雲州堂」の代表、日野和輝氏も口を揃える。
「数年前に大脳生理学に注目が集まり、『左脳は言語脳・論理的な脳、右脳は映像脳・感覚脳』と言われ、“右脳ブーム”が起こりました。そろばんは右脳を鍛えるのに最適な学習なのです」
その効果については、大阪大学大学院医学系研究科名誉教授で医学博士の依藤史郎氏も認めており、指を使ったり、珠を弾く音や読上げ算の声を聞いたりすることで「さまざまな脳の機能が活性化され、左右両側の脳が刺激される」と説明している。そして、右脳の記憶力は「左脳の10倍以上」あるという説まであるのだ。