「『卒業時点で492万円の借金』奨学金のせいで人生が狂った29歳の叫び」(PRESIDENT Online)、「家賃6万円に奨学金返済…コロナ禍、賃貸物件で自殺した20代女性の過酷な現実」(現代ビジネス)など奨学金問題の記事が目立つ昨今。一方で「大学無償化」という言葉も広まるが、実態はどうなっているのか──。
昼間部の大学生の49・6%が奨学金を利用(令和2年度)──。
飛躍的に増えた国立大学の授業料。写真は東京大学。(写真/gettyimages)
この数字を聞いて驚く読者は意外と多いのではないだろうか。調査を行ったのは、日本の奨学金事業の9割近くを担う日本学生支援機構。90年代半ばの利用率は20%程度で、この25年ほどのあいだに2倍以上に増えた計算だ。
なお詳しくは後述するように、日本学生支援機構の奨学金の大半は貸与型。簡単にいえば返済を求められる「借金」だ。貸与型の奨学金には無利子の「第一種」と有利子の「第二種」があり、利用者が多いのは第二種のほうだ。
そして日本学生支援機構は2017年に「給付型奨学金」を新設。20年には「大学無償化法」とも呼ばれた「大学等における修学の支援に関する法律」により、給付型奨学金制度はさらに拡充された。そうしたニュースのうわべだけを追っていると、状況は改善されているようにも見えるが、今も問題は山積みだ。
本稿では、そうした奨学金問題の最新事情を、有識者の声をもとに解説。問題が深刻化した背景と、この問題の本質をひもといていく。
まずは、「なぜ日本の奨学金問題が深刻化したのか」を簡単に解説しよう。
非常にザックリ説明してしまうと、「日本は政府による教育費の財政支出が極端に低い国である」「そして大学の学費は上昇が続いているのに、国民の平均所得は増えていない」「一方で大学進学率は上昇を続けているので、大学進学の費用を賄えず、奨学金の利用者が増加している」というのが深刻化の実情だ。それぞれの点を、各種のデータを交えながら見ていこう。
まず教育への財政支出の低さについて。
OECD(経済協力開発機構)発表の「図表でみる教育 2021」によると、日本のGDPに占める教育支出の割合は、OECD加盟国の37カ国中30位。日本は幼児教育・保育や高等教育において「私費負担に依るところが特に大きい」と指摘されている。実際のところ、ほかの先進国では給付型の奨学金が手広く利用されており、16年時点において、国の奨学金事業に給付型奨学金が存在しないOECD加盟国は日本を含めて2カ国のみだった。
そして授業料の推移については、文科省発表のデータによると、1975年に3万6000円だった国立大学の平均授業料は2015年時点で53万5800円(05年以降、国が示す標準額)と10倍以上に。私立大学の授業料(同)も同期間に18万2677円→86万8447円と4倍以上になっている。こうした変化により、日本の教育は世界でも珍しい「高授業料かつ低補助」の状態となっているのだ。なお4年制大学への進学率も、同期間で27・2%→49・9%と増加している。