――大学受験の頂点とも言われる東大理Ⅲの合格者の半分以上のシェアを持つ、圧倒的な塾「鉄緑会」。基本的には中高一貫の名門進学校生が入塾すると言われている。そんな凡人には縁のない、あるいはあまり知られていない塾の正体を、受験に詳しい識者や同塾OB(無論、東大卒)らの弁から浮き彫りにしてみたい。
鉄緑会のエントランス。
新年が明けて間もない1月15日、従来のセンター試験に代わり昨年から導入された大学入学共通テストの東京大学弥生キャンパス会場で、男子高校生が3人を刺傷するという事件が起こった。男子高校生は、日頃から「東大理Ⅲ」合格に対する異常なまでの執着を明らかにしていたという。
言うまでもなく東大理Ⅲとは、東京大学理科三類のこと。東大では進振りといって、3年次に進む際に学部を決める制度があるのだが、理Ⅲはほぼ確実に医学部に進めることが決まっている。だが、わずか100人の定員しかない超狭き門だ。文Ⅰから文Ⅲ、理Ⅰから理Ⅲの計6種類あるこの分類を科類というが、理Ⅲはほかの科類とは偏差値も格段に違う、東大の中でも特別な存在なのだ。
ゆえに理Ⅲは大学受験における頂点のような位置にあるのだが、ここを目指す大学受験のトップ層は、一体どんな塾に通っているのだろうか? 実は、理Ⅲの定員100名中、2021年度における合格実績37名と、3分の1以上のシェアを誇る大学受験塾が存在する。それが、本稿のテーマである「鉄緑会」だ。なお、この合格実績は代々木本校のみの数字で、大阪校を含めると理Ⅲ合格者の半分をゆうに超える。
「鉄緑会とは東大受験指導を専門とした塾で、受け入れるのは主に超難関中高一貫校の生徒。講師陣も現役東大生や東大出身者が中心で、まさに東大合格に的を絞っている。受験業界において特異な存在感を放つ、まさに東大受験のエキスパート的存在です」
こう解説するのは、受験に関する多くの著書を持つ教育・子育てアドバイザーの鳥居りんこ氏。鳥居氏によると、従来、生徒が鉄緑会を具体的に意識するのは、熾烈な中学受験を勝ち抜いた開成・桜蔭などの超難関中高一貫校の合格発表日だった。
「今はコロナ禍で合格発表はHPのみになっている学校が多いですが、以前は合格者の歓喜の声が響く合格会場付近で、鉄緑会の関係者が『次は東大!!』と書かれた鉄緑会の入塾案内のチラシを配っていたのです。もちろん合格発表会場でチラシを配っている塾はいくつかあるのですが、多くの家族が受け取ってチラシがどんどん減っていくのはダントツで鉄緑会。合格者と不合格者の悲哀だけでなく、塾同士のヒエラルキーも早々に明らかになるのが一流校の合格発表会場だったのです」(鳥居氏)
それにしても、大変な中学受験が終わったばかりにもかかわらず、すぐに大学受験の話をされるとは苦痛以外の何物でもないように思われるが、鉄緑会に相応しいトップ層の生徒はそんなことは気にならないらしい。
「塾通いが完全に自分の生活に染み付いていたので、また塾に行くのが嫌だとはまったく思いませんでした。鉄緑会という塾はチラシを受け取って初めて知りましたが、東大受験専門塾であると謳っている通り合格実績がすごいし、ここに通えば大丈夫だろうと、すぐに家族で入塾を決めたんです」と語るのは、一流中高一貫校に行きながら鉄緑会に通って東大に合格した、中島晃さん(仮名)である。