――過去から見る現在、写真による時事批評
『クックの世界ツアー』1903~04年、著者蔵(以下は中面より)
「Go To トラベル」キャンペーンが再開するのだという。「go to travel」が文法的にも意味的にも間違っているという指摘は、2020年のキャンペーン中からもちらほら聞こえてきていたが、新型コロナウイルスの感染者の拡散という「トラブル」を引き起こす意味においては、「苦痛」を語源に持つ「travel」というのも、あながち間違いではなかったともいえる。
『クックの世界ツアー』1903~04年、著者蔵(中面より)
『クックの世界ツアー』1903~04年、著者蔵(中面より)
余暇を楽しむための短い旅は「trip」で、いわゆる観光は「tourism」とするのが一般的だろう。近代ツーリズムの創始者であるトーマス・クックは、「遊覧旅行」や「周遊旅行」「遠足」を意味する「excursion」という言葉を自社のPR誌(「クックのエクスカーショニスト」)で使っていた。「travel」が苦痛を伴う旅だとすれば、その煩わしさを取り除くことをビジネス化したのがクックだった。彼は未知のものを発見する「travel」を、あらかじめ雑誌や新聞、パンフレットなどで目にしていた既知のものを発見する「tourism」へと変えたのである(6枚目)。アルプスの山々の頂への冒険もクックの手にかかれば、大型馬車や衛生設備付きの快適な旅行となった。