――SDGsが掲げる17の目標は、国民的映画であるスタジオジブリ作品と強く共鳴している!? 各目標を(半ば無理やり)作品に当てはめて、作中でのSDGs的表現を見ていこう。さらに、作品を通じて社会問題と真摯に向き合ってきたジブリを代表する宮崎駿・高畑勲両監督の制作姿勢の変遷を追う。
『風の谷のナウシカ』には、環境問題や過剰な科学文明批判、理想化されたコミュニティ像など、SDGsとも通ずる色濃い思想が見て取れる。(画像は、スタジオジブリ公式HPより)
「愛知県では2022年秋にスタジオジブリと協力して『ジブリパーク』を愛・地球博記念公園にオープンする予定です。(中略)ジブリ映画には人や地球、生き物に対する愛があります。愛知万博の理念の継承、レガシーであり、SDGsそのものではないかと思います」
この発言は「日本創生SDGsモデル」の確立を目指し、2020年2月に行われた第2回未来まちづくりフォーラムに先駆けての取材で、愛知県の大村秀章知事が発した言葉だ。「ジブリで学ぶSDGs【1】」を見ればわかるように、確かにスタジオジブリの作品群、特に故・高畑勲と宮崎駿の監督作品とSDGsの親和性は高いように見える。それではこうした作品の傾向はどこから生じてきたのだろう。
ご存じの方も多いだろうが、スタジオジブリは1985年に宮崎と高畑という2人の映画監督の制作拠点として設立されたアニメ制作会社だ。まずは東映動画での宮崎の先輩に当たり、スタジオジブリの思想的支柱といえる高畑の作品と、その制作における思想的背景に注目して見ていこう。
東京大学仏文科卒でアニメ業界きってのインテリジェンスと評される高畑だが、フランスの詩人ジャック・プレヴェールの影響が強いことは広く知られている。高畑は大学の卒論でもプレヴェールを取り上げており、アニメ『やぶにらみの暴君』(脚本をプレヴェールが担当)を見てアニメで思想が表現できることに感銘を受け、アニメ業界の門を叩いた。高畑がプレヴェールの作品をどのようにとらえていたかは、2004年に高畑が訳を担当した本邦初となるプレヴェールの代表作『ことばたち』(ぴあ)に寄せた文に表れている。
「プレヴェールはまずなによりも自由と友愛の、そして徹底した反権威・反権力の詩人だった。彼はあらゆる支配や抑圧や差別に反対し、戦争や植民地支配を憎み、人間性の解放と自由を擁護して、抑圧されたものたちへの友情と連帯を歌った」「早くから太陽や月や大地や海への敬愛や、草木や動物たちへの連帯と自由意思尊重を、子どもの心とユーモアで歌った」
これは、まさにSDGsが掲げる理想の姿だろう。そして、プレヴェールから受けた影響を作品として昇華したのが、高畑と宮崎が初めて本格的なタッグを組んだ1968年公開のアニメ映画『太陽の王子ホルスの大冒険』だった。