――ユニクロは「新疆綿」疑惑で欧米からバッシングされたわけだが、このところウイグル問題が国際的にクローズアップされているのはなぜなのか? 米中関係に詳しい皇學館大学の村上政俊准教授に話を聞いた。
新疆ウイグル自治区の綿花畑にて。2005年に撮影された写真ではあるが、このように大人に交ざって子どもも収穫の作業を行っていたようだ。(写真:Chien-min Chung/Getty Images)
――中国のウイグル族への弾圧問題は、近年になって急に世界から注目されるようになったと感じます。以前は、どのような状況だったのでしょう?
村上 もともとウイグル族、チベット族、モンゴル族を中心に、独立運動や反共産党的な動きを警戒した中国による民族弾圧は以前から指摘されてきました。中でも従来、欧米の関心がもっとも高かったのはチベット問題で、1997年にはダライ・ラマ14世との交流を描いた映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』が公開されましたよね。状況が一転したのは2018~19年頃。要因のひとつは、英BBCや米「ニューヨーク・タイムズ」がウイグルで起こっている弾圧を報道したことにあります。中国が「職業訓練センター」と呼ぶ強制収容所に100万人以上を拘束し、おぞましい虐待・拷問を現在進行形で行っていることがわかり、一気に注目が集まりました。
――08年の北京五輪前には、チベット自治区ラサ市でチベット独立を求めるデモをきっかけとした暴動が起き、国際的にも取り沙汰されたものの、今回の2022年北京冬季五輪のような外交ボイコットまでには至りませんでした。
村上 確かに、08年にチベットで、翌09年にはウイグルで大規模な衝突があり、欧米を中心に中国を非難する声が上がりましたが、現在のように火の手が世界中に広がるほどではありませんでした。その理由は、米中対立があったかどうかが大きい。アメリカは当時、年率10%の経済成長が続いていた中国に対し、『経済成長すれば、中国もいずれ西側のような民主主義社会、あるいは自由な社会に変わっていくはずだ』という期待を持っていました。ところが、トランプ政権期にその期待が急速に幻滅に変わってしまった。中国の変化は起きないどころか、むしろ共産党の権威主義体制、一党独裁体制がいっそう強まり、西側との対立が鮮明になったんです。その象徴として、ウイグル問題が大きくクローズアップされたところがあります。
なお、12年に始まった習近平政権は“一帯一路”といって、海路・陸路を通じて中国からヨーロッパ、アフリカまでをひとつの経済圏として結ぶ方針を打ち出しています。その中でウイグルは地政学的に重要な場所。共産党にとって都合の悪い動きは、なんとしてでも封じ込めていきたいんです。