――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。
『ダーク・ウォーターズ』
ウエストヴァージニア州で起こった巨大企業の公害事件をめぐって、十数年戦い続けたひとりの弁護士を描く実録モノ。
監督:トッド・ヘインズ、出演:マーク・ラファロ、アン・ハサウェイほか。12月17日全国公開。
1950年代、熊本県水俣などで、化学企業チッソの工場から海に排出された有機水銀によって汚染された魚介類を食べた人々、また妊娠中の胎児に脳性麻痺など重度の障害が出て、「水俣病」と呼ばれた。71年に水俣病について企業側の責任を認めた初の判決が出てから今年で50年、2本の水俣映画が続けて公開された。ひとつは水俣に住んで患者の姿を世界に伝えた写真家ユージン・スミスをジョニー・デップが演じた『MINAMATA』。もうひとつは、原一男監督が20年にわたって水俣を追い続けた6時間超(!)のドキュメンタリー『水俣曼荼羅』。
さらに今年は、アメリカの水俣病とも言える公害事件を描いた『ダーク・ウォーターズ』も公開される。大手化学企業デュポンがPFOAを密かに廃棄していた事件を暴いた弁護士ロブ・ビロットの実録ドラマだ。PFOA(ペルフルオロオクタン酸)はテフロン加工の製造過程で使われる化学物質。永遠に分解できないのでフォーエバー・ケミカルと呼ばれ、強い発がん性や催奇性がある。
主人公ビロットを演じるマーク・ラファロはビロットについての記事を読んで自ら映画化権を取得し、主演した。ちなみにラファロは『フォックスキャッチャー』という実録映画では、96年、デュポンの創業者の相続人ジョン・デュポンに殺されたレスリングの金メダリストを演じている。
ビロットは弁護士事務所で、主に化学企業の弁護をしてきたが、90年代終わり、ウェストヴァージニア州のパーカーズバーグという田舎町からやって来たウィルバー・テナントという農場経営者から190頭もの牛が変死した件の調査を依頼される。ウェストヴァージニアはアメリカでも最も貧しい州のひとつで、この依頼は金になりそうもない。だが、祖母の出身地だったので、責務を感じ、報酬は勝訴した時払いということで調査を始める。
農家の近くには大手化学企業デュポン社がテフロン加工の廃棄物を投棄しており、それが水質を汚染していた。ビロットは廃棄されたのがPFOAだと突き止める。そしてデュポン社の従業員にもガンや胎児の先天性異常が出ていたことがわかる。恐るべきことにデュポン社はその当時から30年以上前の60年代にPFOAの毒性に気づいていた。そのへんはチッソと同じだ。