――今夏の一大騒動となったフェス『NAMIMONOGATARI2021』を真正面から批判するツイートで、一躍時の人となった愛知県東浦町在住のラッパー、REINO。ツイートがバズる前から楽曲を積極的に発表していた彼は、同時にバイセクシャルであることも公にしていた。古くからホモフォビアの悪習が残るヒップホップのカルチャーにおいて、特に国内で彼のような存在は稀有である。REINOは何がきっかけでラップに傾倒し、自身のセクシュアリティを自覚したのか。ラップとセクシュアリティという観点から、17歳の本心を聞いた。
(写真/KOBA)
「もはや“ゲイ”はヒップホップの対義語ですらあると思う」
──2005年、カニエ・ウェスト(現・イェ)がMTV『All Eyes On』のインタビューで放った言葉だ。彼は学生時代の経験を踏まえ、ヒップホップも同様に同性愛に対していかに厳しいかを語り、その風潮は変わるべきだと指摘した。彼が言うように、ラップは単なる音楽を超えてマイノリティによる力強い存在表明ですらあったが、力強さの表現として、時にためらいもなく女性や性的マイノリティを軽侮してきた過去がある。当時はまだ、その文化や風潮を疑う者が少ない時代でもあった。
2010年代に入り、フランク・オーシャンなど人気アーティストのカミングアウトが進むことで見直しが進むものの、いまだに偏見は根強く残っている。リル・ナズ・Xはゲイである自身に向けられる偏見と苦悩を表現して注目と称賛の的となっているが、彼に対して嫌悪感を露わにしている人々が残っているのも事実。これが2021年の現在地だ。
現状を過去にできるかどうかは、ラップを愛する人々に委ねられている。それは筆者であり、読者諸氏も同様に。今回、いちセクシュアルマイノリティがラップの世界をどう見ているのか尋ねるべく、バイセクシャルを公言しているラッパー、REINOに「ラップとセクシュアリティ」という観点から話を聞いた。
彼は愛知県東浦町を拠点とするアーティストで、今夏の一大騒動となった『NAMIMONOGATARI2021』(以下、波物語)へラッパーという立場から苦言を呈した数少ないアーティストのひとりでもある。一躍時の人となった17歳のラッパーは、なぜ同性愛者を踏みにじる歴史を抱える世界に飛び込んだのか。例えば、変態紳士クラブのメンバーとしても活躍するアーティスト、WILYWNKAが発表した「NO MAKE」(20年)に対し、REINOが発表したディス曲「Upset」からは、彼の感じる窮屈さが感じ取れる。また10月にリリースしたばかりのアルバム『Love from T*itter Kid』のみならず、彼の作品に一貫しているのは、所在なさや心の不安定さでもある。彼をそうさせる17年の人生は、どのようなものだったのか。楽曲では年相応の伸びしろを感じるのが筆者の本音ではあるが、いざ話し合えば17歳とは思えないほどの豊かな考えを語ってくれた。
──ラップを聴く前はどんな少年だったのでしょうか?
REINO 母子家庭なんですけど、おじいちゃんがお母さんから僕を奪って小学生くらいまで育ててもらいました。祖父母の関係も悪い家庭環境で、刃物を持ち出してケンカをしたり、とにかく家庭に“いい人”がいない状況でした。おじいちゃんは途中でいなくなっちゃうんですけど、その頃からおばあちゃんは認知症が進み、僕をおじいちゃんと勘違いしてキレるようにすらなったので、母親は介護のために仕事をセーブして、そのタイミングでコロナが始まり、今では電気ガス水道代も払えない生活が続いてます。
──お母さんは優しい方ですか?
REINO どうですかね。面白い人ではあるんですけど、僕のバイト代を半分以上持っていくし、借金も重ねてるし。おかげで封筒の色だけで督促状の内容がわかるようになりました。正直、あまり愛を受けた記憶はないです。
──ラップとの出会いを教えてください。
REINO 子どもの頃はアニソンを聴いていたんですけど、ラップだと思わずに聴いていたのがDAOKOさんの「Fog」でした。その流れでJinmenusagiさんやGOMESSさんとか〈Low High Who?〉を中学生の頃にYouTubeで知って聴いてました。自分がラップを始めたきっかけはZORNさんです。
──ZORNといえば「新小岩」(20年)で「うるせー黙れオカマ」というリリックを用いていましたが、そういった表現はどのように受け止めていますか?
REINO その曲は聴いていないので判断できません。初めこそZORNさんでしたが、途中から海外のラップにのめり込んだので、『Love』(19年)以降は聴いてないんです。日本より海外のシーンのほうがいろいろな個性が共存していて、見ていて楽しいから。