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第1特集
中国の検閲は意外とルーズ?

私立探偵と幽霊は検閲対象 今はやりの華文ミステリの世界

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――中国・台湾・香港から主に生まれる、中国語で書かれたミステリは総称して「華文ミステリ」と呼ばれている。そんな華文ミステリだが、現在世界での評価が高まり、日本でも次々と翻訳されるようになった。その豊穣な世界を見ていきたい――。

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『ミステリマガジン 2021年09月号』(早川書房)

成績優秀ながら、両親が離婚し、心に影を落とす中学2年生の少年。あるとき彼の自宅に孤児院を脱走してきたという幼なじみの少年が、仲間の少女を連れて訪ねてくる。別の日、景勝地へ出かけた少年少女3人は記念撮影をするのだが、見返した画像には老夫婦を崖から突き落とす男性が写っていた。義父母を事故に見せかけて殺した、その男性をゆすって金を得るプランを少年たちは思いつく。

これは、先ごろ邦訳が刊行された『悪童たち』【1】の導入部分。中国の作家、紫金陳が中国を舞台に書いた、純度100%の華文ミステリだ。中国、台湾、香港から生まれた、中国語で書かれたミステリの総称である華文ミステリが、今や日本でも新たなジャンルとして多くのファンを獲得しつつある。

「漢文・漢文学を指す“華文”という言葉自体は、古くから中国にある語彙ですが、“華文ミステリ”という用語が広く使われるようになったのは、日本のミステリ作家・島田荘司が2008年に台湾で島田荘司推理小説賞を創設した際、応募者の国籍や居住地は問わず、中国語で書かれた本格ミステリ小説を広く募集したことが発端であると思われます。そのときに“華文ミステリ”という言葉が使われました。以降、中国、台湾、香港とそれぞれに文化も政治的な事情も異なりながらも、中国語文化圏ということで共通の土台を持つフィールドを舞台にした華文ミステリが、活況を呈していくようになりました」

こう話すのは、華文ミステリに詳しいライター・編集者の菊池篤氏。『占星術殺人事件』(講談社文庫)でのデビュー以来、壮大な謎と抒情的な雰囲気で新本格ムーブメントの基礎を築いた島田は、中国や台湾でも多数の著作が翻訳され、「推理之神」と尊敬されている。その島田が広く中国語文化圏のミステリ興隆のために創設した賞は、多くの人気作家を生み出すことになった。

「17年に発表された『週刊文春ミステリーベスト10』の1位など、各方面で高い評価を受けた『13・67』【2】の作者・陳浩基も、島田荘司推理小説賞の出身。彼が11年に同賞を受賞した作品は『世界を売った男』(文春文庫)の邦題で12年に日本で刊行されています」(菊池氏)

その『13・67』は、香港出身の作者が同地を舞台に描いたミステリーの連作集。最初のエピソードである「黒と白のあいだの真実」の舞台は13年、ある財閥の家庭で起こった殺人事件を解き明かすため、ひとりの警部が、数々の難事件を解決してきた老刑事・クワンの力を借りる。そのクワン刑事は高齢で、病院で寝たきりの状態。しかし意識は清明であるとクワンのかつての部下であるロー刑事は説明し、事件の関係者を病室に集めた上で、クワンの体に脳波でイエスかノーかを答えられる装置をつなぎ、質問を繰り返すことで事件の真相を導き出していくのだった……。

陳浩基は当初この作品だけを独立して執筆するつもりだったそうだが、話を続けさせたいと、このクワン刑事の若い頃の活躍を描くことを考えついた。それに続くエピソードでは03年、1997年と時代はさかのぼり、やがてイギリス統治時代の香港が舞台となる。最後のエピソードは67年、当時香港を揺るがしていた反英暴動のさなか。各章ごとに凝ったミステリの趣向を凝らしながら、香港の激動の現代史を映し出すクロニクルともなっている。早川書房で華文ミステリを担当する根本佳祐氏は、次のように語る。

「今や世界で高い評価を受ける陳浩基は、短編集『ディオゲネス変奏曲』【3】でもその多彩な実力を発揮しています。サイコサスペンスからSF風ミステリまで、非常に幅広い短編集になっています」

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