サイゾーpremium  > 連載  > 稲田豊史の「オトメゴコロ乱読修行」  > オトメゴコロ乱読修行【73】/ブラック・ウィドウ

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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マーベル公式サイト『ブラック・ウィドウ』より。

世界中で何億ドルもの興収を上げなければペイできないハリウッド製のアメコミ映画は、政治的正しさにもっとも敏感である。という意味で『ブラック・ウィドウ』は超優等生だ。ここ数年のフェミニズム、ジェンダー、シスターフッド(女性の連帯)ムーブメントを全部盛りしつつ、マーベル映画としても出色の完成度を叩きつけた。

アベンジャーズに所属するラバースーツの戦闘ねえちゃんことブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)の生い立ち、(疑似)家族との絆、元いた組織への落とし前と報復劇を描いた本作は、まず設定からして鼻息が荒い。

ナターシャがかつて所属していたスパイ養成機関の戦闘員は全員女性。彼女たちは子宮と卵巣を摘出され、生物学的な「女性の機能」を理不尽に剥奪されている。奴隷状態で過酷なミッションに従事しているが、洗脳によって「意識はあるが、本当の自分がわからない」状態のため、それが理不尽な搾取だとは気づかない。「女性とはこういうものである」という男性からの洗脳によって手懐けられた「悲しき被害女性」の象徴。そんな彼女たちは「ウィドウ(未亡人)」と呼ばれている。結婚もしていないのに、あらかじめ大切な何かを失っているのだ。

組織のボス・ドレイコフは、仕立てのいいスーツを着た金持ち感満載のパワハラオヤジ。ウィドウたちを思いのままに操り得意満面の彼は、旧世代男性のハーレム願望・子どもっぽい支配欲・お山の大将欲をごった煮にしたような男で、ナターシャに「女の子の前でしか威張れない」と図星を突かれて激昂する。「女子の考える最強の仮想敵」感がすごい。なお、彼の本拠地は『天空の城ラピュタ』のごとく雲海の中に浮いた機械要塞であり、これもムスカ的な中2感がヤバい。

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