――歴史ファン以外にはあまりなじみがないかもしれないが、実は幅広いテーマを扱う歴史雑誌の数々。これらの雑誌こそ歴史研究を下支えしているのだが、歴史ファン向けと歴史研究者向けの雑誌では、お互いの間に溝があるという話も……。ここではそんな歴史雑誌の世界をのぞいてみたい。
今回、取材に協力頂いた「歴史研究」(戎光祥出版)と「歴史街道」(PHP研究所)。独自性のある企画で歴史を多角的に捉える特集が散見できる。
「歴史街道」(PHP研究所)、「歴史研究」(戎光祥出版)、「歴史群像」(ワン・パブリッシング)、「歴史人」(ABCアーク)、「歴史評論」(歴史科学協議会)……。「歴史」と名の付く雑誌は、実は結構ある。日本史特集である今回は、外野にはなかなかうかがい知れない歴史雑誌の世界について、現場の編集者に聞くとともに、歴史学者にとって歴史雑誌はどういう存在なのかも深掘りしてみたい。
「『歴史街道』の創刊は1988年。弊社の初代所長であった松下幸之助(パナソニック創業者)が、当時『世界を考える京都座会』という各界の有識者の集まりを主宰していました。伊勢から奈良、京都、大阪、神戸にかけてを『歴史街道』としてひとつなぎにして、国内外に発信していこうという構想を立ち上げ、そこから派生したのが『歴史街道』という月刊誌です」
そう話すのは、「歴史街道」編集長の大山耕介氏。同誌が創刊した当時は、「歴史読本」(新人物往来社)、「歴史と旅」(秋田書店)という月刊誌があり、その2誌との差別化を図るため、歴史を単に知識としてではなく、雑誌のキャッチフレーズである「時代を見抜く座標軸」として活用しようということをコンセプトに掲げた。先の2誌はすでに休刊し、「歴史街道」は歴史雑誌の最古参となっている。
2021年8月号は400号記念ということで、第一特集として「日本史と世界史の転換点(ターニングポイント)」、第二特集では、忍びの国として知られる伊賀が織田信長の次男・信雄の軍を撃退した「天正伊賀の乱」を扱っている。かなりの歴史好きでないとなじみがなさそうな題材だが、忍者と関連したテーマは人気があるという。ほかに歴史好きで知られる乃木坂46の山崎怜奈や『東大王』で人気になったクイズ王の伊沢拓司のインタビューもあり、若い読者にも目配りしており、10年ほど前の歴女ブーム以降は女性の読者も増えているという。
「一番人気で頻繁に取り上げるのは、やはり戦国時代。あとは幕末と、最近は太平洋戦争関連も増えてきました。令和になって昭和も“歴史”としてとらえられるようになったということかもしれません。私が編集長となって以降で一番“最近”を扱った特集は、東京裁判と朝鮮戦争ですね。もちろん新しい大河ドラマが始まる時期には、題材となる人物の特集も定番です。これまでは近代の経済人は反応が悪かったのですが、渋沢栄一の特集はかなり売れ行きがよかったです」(同)
対象読者だが、歴史ファンはもちろんのこと、中高生にも読めるようにルビもかなり振っており、10代の読者も結構いるという。
「特集は毎月6人の編集部員が中心となって決めるのですが、編集部員の中には、それほど歴史好きではなかった者もいます。けれど、意外とそうした人のほうが、歴史にどっぷり浸かってきた人間が思いつかない、新鮮な企画案を出してくることもあるんです」(同)
現在発売中の最新号では、「日中戦争・失敗の本質」という特集を組んでいるが、東京五輪のタイミングで新型コロナの感染が最悪の状況に陥る中、ツイッターなどでは、太平洋戦争を止められなかったかつての日本と重ね合わせる意見も多かった。その意味では、タイムリーな特集にも思えるが……。
「今回の特集は、日中戦争により、1940年に予定されていた東京オリンピックが中止になった、ということも意識して設定しました。これまで太平洋戦争の特集は何度もしてきましたが、日中戦争からの流れをきちんとまとめられていなかったという反省があったので、そこを検証したかった面もあります」(同)
コロナ禍でいえば、江戸時代に疫病がはやったときの対策に関する記事を同誌が掲載したこともある。歴史雑誌が提供できる情報としては「困難な時代においてリーダーはどうあるべきか、ということは歴史から学べるのでは」と大山氏は語るが、まともなリーダーシップを示せない今の政治家たちにこそ、歴史雑誌でも読んで歴史に学んでほしいものである。