「今だから言えますけど、高校時代から『もしかして』と感じる瞬間はあったんです。でも、認めたくなかったというか……」
中学生になる頃から、友人たちと同様、年相応に女性への興味が高まった。ただ、それと同じ感覚で男の裸にも興味を引かれる自分がいる。
「アイツはどんな体をしているのかな、みたいな感じで、つい見たくなる。友達とスーパー銭湯に行くのとか、ちょっと楽しかった」
ただ、当時の康士は、LGBTQに対する知識が圧倒的に少なかった。というよりも、「陰キャ」的と自身が回想するように、10代の頃の康士は、気は優しいが、自分から前に出ていくような人間ではなく、性的にも奥手だった。
「彼女はできず、好きなコはいたけど……付き合いたいなんて積極的に動くこともなく、果たして本当に好きだったのか……」
女性に対して、いつまでも「かわいいな」以上に盛り上がらない自分。一方で男性への性的な興味はなくならない。
「もしかしてゲイなのかな……」
奥手の康士も、テレビなどを通してゲイのことは少しずつわかってきていた。
ハッキリと自覚したのは、高校卒業後、専門学校に通っていたときである。
「高校卒業前に受けた、ある公務員の試験に落ちちゃったんです。就職はそれしか考えていなかったから、どうするかとなったのですが、家族と相談して専門学校から公務員を目指すことになりました」
その学校に「脱ぎたがり」の先輩がいた。
「自分の体に自信があって、酔うとすぐ脱ぐんですよ(笑)。で、『触れよ!』となるまでが毎回のパターン。まぁ、男同士のふざけ合いですよね。でも、私は楽しかったんです。『何やってるんですか〜』とか言いつつ、触って喜んでいる自分に気づいて、もう認めるしかないな、と」
しかし、カミングアウトはもちろん、積極的にゲイのパートナーを求めるようにはならなかった。
「ヘンな目で見られるかな、『アイツに近づかないようにしようぜ』とか言われたら嫌だな、という気持ちが強くて……」
端的に言えば怖かった。決して目立つタイプではなかった康士は、昔から「嫌われたくない」という気持ちが強かったという。
「だから、自覚したけど認めてない、みたいなモヤモヤ状態でしたね」
そして、ゲイであることを隠さねば、という気持ちを、さらに強くする転機が訪れる。
野球を再開したのだ。