――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。
今月のテクノロジー
『NotMilk』NotCo公式HPより。2015年にチリでたった7人で始まった植物性代替食品のスタートアップ、The Not Company。同社の代替ミルク「Not Milk」は、全脂タイプ(Whole)と脂肪分2%の低脂肪タイプ(2% Reduced Fat)の2種類が販売されている。NotCoの代替ミルクを飲むことで、二酸化炭素などを削減することになるという。
今、我が家の冷蔵庫には64オンス(約2リットル)のミルクが入っている。飲んでみると、独特の甘みが広がって、美味しい。
近所の自然派スーパーマーケットである、ホールフーズ・マーケットで、1本450円ほどで買ってきたものだ。一見すると、他のミルクとは大きく変わらない。
しかし、赤と白を使ってデザインされたおしゃれなパッケージを見ると、実はこれはミルクではないことがわかる。商品名は『NotMilk』(ミルクじゃない)。乳牛のシルエットに、大きなバッテンがつけられたデザインになっている。実はこれ、チリで生まれたいま話題の食品スタートアップ、ノットコ(NotCo)が約半年前にアメリカで売り出して、話題になっている植物性ミルクのひとつだ。
飲んでみるとわかるのだが、これは美味しい。
いわゆる「健康と地球にやさしいから、ちょっとくらい不味かったり、値段が高くても仕方ないよね」という類いのオーガニック食品のイメージとは、まったく異なるものだと分かる。
今このNotMilkは、アメリカの大手スーパーマーケットなどの流通にも乗り始めており、すでに販売店は8000店に迫る勢いだという。
ノットコが誕生したのは、2015年のこと。南米のチリで起業した、マティアス・ミュクニックと、パブロ・ザモーラが立ち上げたフードテック企業だ。
「すべては、Not(〜しない)から始まりました。動物性の食べ物をなくすことで、地球環境が守れることを知りました。そこで考えたソリューションが、(人工知能の)アルゴリズムです」(ノットコ創業者)
実はこの会社は、ミルクやマヨネーズ、アイスクリーム、肉類を植物から作るだけではない。美味しいと思える味であったり、舌触りを再現するために、大量のデータを使っていることが特徴だという。
例えば、冒頭のミルク(NotMilk)。まずはベースに、チコリーという野菜が使われている。これは消化を助けるための食物繊維に加えて、甘さを醸すためのものだ。
えんどう豆は、タンパク質を得るためのもの。キャベツとパイナップルは、独特の匂いを生み出すために混ぜる。さらにココナッツオイルによって、牛乳のような、なめらかな舌触りを加えているのだという。
もちろん試行錯誤をするのは人間だが、その背景には何千種類という植物由来の食べ物のデータベースがあるという。つまり味、香り、舌触りといった要素を、どのように組み合わせたらいいのか、最初に提案するのが、このノットコ社のコアとなっている「ジュゼッペ」(Giuseppe)という名前の人工知能だ。
まだ未公開企業であるため、そのテクノロジーがどのくらい優れているのか、私はちゃんと確かめられない。しかしながら、味は確かだと感じる。
そしてこの会社の投資家には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスをはじめとして、南米でもトップクラスのベンチャーキャピタルであるカゼックなども、お金を出資している。
ちょうど先月下旬、約260億円ものお金を新たに集めて、すでに時価総額は約1800億円に達するユニコーン企業になっているわけだ。