外国人の姿が目立つ市内のショッピング施設。
技能実習制度とは何なのか。
「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、技能実習法)には、その目的がこう書かれている。
「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進すること」(第1条)
わかりやすく言えば、母国では学べない技術や知識を日本で学び、それを母国に戻って生かしてもらうという「国際貢献」を目的とした制度だ。
だが、コンビニ総菜にフタをつける作業や、加工食品を仕分ける作業から、どんな技術や知識を学び、母国で生かせばいいというのだろうか。
技能実習法は、その基本理念に「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(第3条第2項)とあるが、実態はまさに「労働力の需給の調整の手段」そのものだ。
14年末時点で約17万人だった技能実習生は、20年には2倍を超える約40万人にまで急増している。本連載では技能実習制度の詳細を書く紙幅はないが、関心のある人は、拙著『ルポ技能実習生』(ちくま新書)を読んでほしい。
市中心部ではベトナムやネパールの食材店やレストランが散見される。
大手メディアや学識者を中心に、耳触りのいい「外国人との共生」を謳い、技能実習制度を「奴隷労働だ」「廃止すべきだ」という声が散見されるが、本連載はそうした声には与しない。低賃金で退屈な仕事は「外国人まかせ」にする「人手不足の不都合な真実」をえぐり出していくのが本連載の目的だ。
深夜のコンビニ総菜工場が人の目に触れることはないが、日本人の快適な暮らしは外国人労働者なしには成り立たない。本稿は鳥栖を舞台に書いているが、これは鳥栖に限った話ではなく、日本各地で見られる光景である。
「奴隷労働」と非難される技能実習生当人も、日本企業に首根っこをつかまれて来日しているわけではない。
冒頭のAさんは高校卒業後、技能実習生として日本に来ることを決意した。すでに日本から帰ってきた技能実習生が家を建てたり、日本で貯めたお金を元手にビジネスを始めたりしている姿を見て、自分もと思った。
「友達もたくさん日本で働いているし、300万円貯金したい」
今時、アジアの農村部の若者でもスマートフォンを持っている。SNSを通じ、世界の状況はわかる。本当に奴隷労働なら、誰も日本を目指さない。
Jリーグのクラブであるサガン鳥栖の本拠地「駅前不動産スタジアム」の背後に商工団地が広がる。
現在、寮費を差し引いたAさんのひと月の手取り給与は約12万円。生活費を抑え、まずは来日のために親族から借りて送り出し機関に支払った約100万円の借金を返済し、毎月10万円程度は貯金したいという。
Aさんの両親は農家だ。ベトナムの農家の年収は30万円程度で、日本と比べれば、まだまだ圧倒的な経済格差がある。だからこそ、彼女のように後に続く者が絶えない。
夜勤の仕事は大変かと思うかもしれないが、むしろ歓迎だ。Aさんは働き始めて1年程度だが、すでに働き始めて4年目のBさんより給料が高い。
「昼間の勤務で残業がなく、3年目まではひと月の手取りが10万円以下でした。3年で200万円くらいは貯金できると思っていました。日本に行くために送り出し機関に払った150万円は返済しましたが、貯金は100万円程度しかできませんでした」(Bさん)
技能実習生を受け入れる側の目的が「国際貢献」でないことは明らかだが、当の実習生にも「技能実習に専念することにより、技能等の修得等をし、本国への技能等の移転に努めなければならない」(第6条)と、その責務が技能実習法に明記されている。
ただ、実態は出稼ぎだ。彼らの大半が高額なお金を送り出し機関に払い来日しており、入国後にすぐに返せないとなると失踪の原因になる。
実際、法務省が失踪技能実習生に対し行った調査(19年)によれば、1週間あたりの労働時間数は「50時間以下」が全体の約8割を占める。労働時間が短いほど、失踪者が多くなる。出稼ぎが目的である以上、残業も賃金の高い夜勤もウエルカムなのだ。