――新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まったが、テレビでは盛んに副作用が報じられており、こうした情報を見ると正直怖くなる。世間にはワクチン接種に否定的な者もいるということは、同時にワクチンに対する忌避の長い歴史もあるということだが、これは何がきっかけで始まったのだろうか?
新型コロナウイルスの感染拡大と共に、勢力を伸ばす反ワクチン運動。(写真/David McNew/Getty Images)
国内でも医療従事者への新型コロナワクチンの接種が始まった。しかし、米国では医療従事者たちの25%がワクチン接種を拒否しているといった調査もあり、国内でもワクチンを接種したくない人たちが現れている。
特に国内でワクチン接種の開始された直後は、ニュース番組でも接種後の副反応などが取り上げられ、書店にはワクチン薬害に関する書籍が数多く並んでいる。
ワクチンの安全性に関心が高まっているが、そもそもなぜ人々は接種に対して忌避感を抱くのか? 本稿では欧米や日本の反ワクチン運動の潮流をたどっていきたい。
現在、国内外で新型コロナワクチンのアナフィラキシー反応など副作用に関する報道も目立っているが、現場に立つ医療従事者たちはどう感じているのか?
「望ましいとは言えませんが、やむを得ない面はあるでしょう」とは、「科学」と「ニセ科学」に関する情報を発信し、著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)がある医師の名取宏氏。
「単に感染症の制御が目的なら、強権的にワクチン否定派の表現を規制すればいいでしょうが、公衆衛生と同じくらい個人の自由を尊重する民主主義的な価値観も重要です。両者を両立させる努力を続けなければならないし、ワクチンを受けない自由や『ワクチンを受けたくない』人にも表現する自由がある以上、副作用に関する報道も行われるべきです」
もちろん、そこには「正確な報道であれば」という大前提がある。科学的に正確な情報ほど断言的な強い主張は難しく、SNSで反ワクチン派と肯定派がそれぞれの主張を展開すれば、デマ情報のほうが人々の耳目を集めやすい。結果的に副作用のみが強調され、不安を煽るような報道も国内外で少なくない印象だ。