――2018年、アニメ市場において、配信売上がパッケージ売上を上回った。『鬼滅の刃』は、Netflix、Amazonプライムビデオをはじめ計20社のプラットフォームで配信が行われていたことが接触機会を増やし、ヒットにつながったと言われている。アニメと配信サービスの蜜月のカラクリを紐解いてみたい。
アニメ配信・パッケージ売上推移比較
※一般社団法人日本動画協会 報告書「アニメ産業レポート2020」より引用作成
今や国民的ブームとなった『鬼滅の刃』。アニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、『千と千尋の神隠し』を抜いて日本歴代興行収入第1位を飾り、2月1日時点で興行収入は368億円を突破した。
2019年4月のテレビアニメ放送開始時には好事家の間で注目を集めていた程度だったが、放送が始まるとその出来映えからツイッターなどのSNSを中心に口コミが広がり、20年に入ると爆発的な人気を獲得。その過熱ぶりは、原作単行本の累計発行部数が同年2月の4000万部から7月には2倍の8000万部、そして10月に1億部を突破、12月にはとうとう1億2000万部に到達――といったデータからもうかがい知れるだろう。昨年末にフジテレビで特別総集編「柱合会議・蝶屋敷編」を放映した際には、『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の真裏にもかかわらず平均視聴率14・4%と大健闘した。
19年9月末のテレビアニメ最終話終了後に劇場版の制作が発表されていたとはいえ、通常のアニメであればテレビというマスへの露出が終わった段階で、作品の人気は落ち着く傾向にある。だが近年は『鬼滅の刃』を筆頭に、『ゆるキャン△』や『Re:ゼロから始める異世界生活』など、放送終了後も人気が根強く持続する作品は少なからず散見される。なぜそうした“後伸び”が可能になっているのか。
すでに数多くのメディアや評論家が『鬼滅の刃』ヒットの要因としてこぞって挙げているのが、“ネットでの動画配信”だ。同作を手がけたアニプレックスの高橋祐馬プロデューサーは「日経クロストレンド」のインタビューにて、「(引用者注:テレビ放送開始時から動画配信サービスと)契約できるところすべて、約20社と契約した」と答えている(20年10月7日掲載「『鬼滅の刃』ブームの裏に、アニメ化と計算尽くしのファン獲得策」より)。SNSを介して作品の評判を知った層がNetflixやAmazonプライムビデオほか、さまざまなプラットフォームで後追い視聴するのを可能にした配信戦略が、今回の歴史的ヒットの推進力になったといわれている。付け加えれば、新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要によるVODサービスのアクティブユーザー増加も理由として挙げられることが多い。
現在、VODサービスの隆盛によってアニメ業界のビジネス構造が変わってきているというのは、耳ざとい読者であればすでに聞いたことがあるだろう。本稿ではアニメビジネスの概要を押さえつつ、VODサービスがアニメ業界にもたらす新たな潮流について紐解いていこう。