サイゾーpremium  > 特集  > 社会問題  > 【自民党】に根付く男尊女卑思想

――日本の衆議院議員の女性比率は、世界の193カ国中165位(2019年発表の調査)。2020年12月には、「選択的夫婦別姓」の文言が第5次男女共同参画基本計画から削除され、自民党の女性議員も同制度の反対に回った。先の安倍政権は「女性活躍」を喧伝したが、男性優位の社会を維持する政治は今も変わらない──。

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『現代政治と女性政策』(勁草書房)

 結婚する際に夫婦別姓か同姓かを選べる「選択的夫婦別姓制度」。その法制化は20年以上も議論が続いてきたが、2020年12月に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画案では、自民党内の反対派に配慮する形で、その文言自体が削除された。

 夫婦の姓を同姓とすることを法律で義務付けている国は、国会答弁で「我が国のほかには承知していない」と認められるほど、世界的に稀有なもの。自民党内の反対派の「家族の絆が壊れ、子どもに悪影響が及ぶ」という声や、その反対派に女性議員まで加わっている状況には、違和感を覚える人が多いだろう。

 そして日本の女性国会議員比率(衆院)は、世界の193カ国中165位で、G20諸国で最下位(19年発表の列国議会同盟の調査)。中央省庁の最高幹部(事務次官や局長)を占める女性の割合も5%以下と、男性が政治の権力を握る状況が続く。

 諸外国ではコロナ禍においても女性リーダーの活躍がニュースとなる中、なぜ日本の政治では圧倒的な男女格差が温存され、男性支配が継続しているのか。本稿では、政権与党の立場を維持する自民党の「政治とジェンダー」の問題に焦点を当て、有識者の声を参考にその背景をひもといてみたい。

 まず、近年の自民党においては、第二次安倍政権で「女性活躍」の推進が大々的に喧伝されたことが記憶に新しい。「すべての女性が輝く社会」なるキャッチフレーズも相まって、「女性のための政策を推進した政権」というイメージを持っている人も多いかもしれない。だが、東京都立大学の教授で、福祉国家論、社会政策論、ジェンダー政策などを研究する堀江孝司氏は、「安倍政権の女性活躍推進政策はあくまで経済政策でした」と話す。

「少子高齢化の進む日本において、第二次安倍政権では『女性の労働供給を増やすこと』を経済政策の柱のひとつとしていました。それは経済界の意向とも一致していたので、『女性活躍』という言葉を使い、その政策を推進したのです」

 堀江氏が論文中で引用した経団連の「2014 女性活躍アクション・プラン」には、「女性の活躍推進は、女性のための施策ではない。……人口減少社会においては、あらゆる人々の能力が最大限活用されなければならない」という文章まである。安倍政権の女性活躍推進政策は、実態としては経済のための「女性活用」推進政策だったわけだ。

 そして多くの人が指摘しているように、その女性活躍推進の施策の実施後も、女性の雇用者の半数程度が非正規雇用という状況は改善が見られない。そして安倍前首相が14年に宣言したのは「20年までに女性管理職比率30%以上」という目標だったが、20年時点でも10%程度。ジェンダー平等の観点から本気で目標達成を目指していたとは到底思えない数字で、達成年限は先送りになった。

「ただしマスコミもジェンダー不平等への関心は薄く、『女性活躍』というキャッチフレーズばかりを無批判に広めたことの効果は大きなものがあったと思います。安倍政権の女性活躍推進政策は専門家・研究者の評価は低いですが、10年後、20年後の世の中では、『安倍政権が掲げた女性活躍推進政策が、女性の地位向上のきっかけになった』といった認識が広まっている可能性もあるでしょう」(堀江氏)

 メディアの問題については、「安倍さんがジェンダー平等や男女共同参画にむしろ否定的な立場の議員だったことが報じられていないのも、大きな問題」と堀江氏は話す。

 男女平等や男女共同参画、ジェンダー運動などの流れに反対する運動・勢力は、「バックラッシュ」と呼ばれるが、安倍前首相はその中心にいた人物。第一次安倍政権の成立前年の05年に発足した「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」において、安倍前首相は座長に就任。夫婦別姓や、男女共同参画条例、男女混合名簿などに異議を唱えていた。

「そうした過去があったので、安倍さんは首相在任中も『男女共同参画』『ジェンダー』といった言葉を国会の答弁でほとんど使っていません。『女性活躍』という曖昧なキャッチフレーズを掲げたのも、大臣のポスト名に『女性活力・子育て支援担当大臣』『女性活躍担当大臣』という名称を使ったのも、そうした言葉を避けるためだと考えられます」(堀江氏)

 なお安倍前首相が座長に就任したプロジェクトチームにおいて、事務局長を務めたのは山谷えり子参議院議員。今回の選択的夫婦別姓についても反対側に回った自民党議員だ。文化人類学とフェミニズムの研究者で、日本の右派勢力の動向にも詳しいモンタナ州立大学社会学・人類学部の山口智美准教授は、「今回の選択的夫婦別姓に反対している議員には、日本会議とともに夫婦別姓反対活動を長年続けてきた人が多い」と話す。

「自民党では選択的夫婦別姓に反対する議員たちが、家族や地域社会の絆を重視する議員連盟『「絆」を紡ぐ会』を20年11月に立ち上げましたが、中心メンバーの高市早苗さんや、山谷えり子さんは日本会議と関係の深い議員です」(山口氏)

 今や多くの人が知る存在だが、日本会議は右派・保守系の団体としては国内最大級の組織。2015年時点で国会議員の約4割が参加していたことや、安倍前首相と思想が近く、安倍内閣の大半がその参加者だったことなどをご存じの方も多いだろう。なお日本会議の結成は97年だが、その前身団体の頃から、夫婦別姓への反対活動は始まっていたという。

「日本会議のウェブサイトに活動の歩みが記載されていますが、95年には『家族の絆を守り夫婦別姓に反対する国民委員会』が設立され、夫婦別姓法案の反対運動を始めています。翌年には『夫婦別姓に反対する地方議会決議相次ぐ(281議会)』との記載がありますが、地方議会の決議を次々と出していくのは、日本会議の典型的な運動法です」(山口氏)

 その後も夫婦別姓に反対する活動はズラリと記載されているが、90年代後半には「新しい歴史教科書をつくる会」の活動も活発化した。

「草の根保守運動に励む人たちは、そちらに力を入れすぎたせいか、男女共同参画社会基本法(99年施行)には目立った反対活動を行いませんでした。そして全会一致で同法が成立してから慌て始めたのか、男女平等や男女共同参画の流れに反対する『バックラッシュ』が始まったんです」(山口氏)

 その中では01年9月には日本会議内に「日本女性の会」という組織も誕生。「日本の家族を守る運動」や、夫婦別姓法案への反対運動などを断続的に行っている。

「『日本女性の会』が大きな集会を開くと、そこに国会議員の支援者として現れるのが高市さんや山谷さんたちでした。彼女たちはもう15年以上も夫婦別姓への反対活動を続けていますし、民主党政権で福島瑞穂さんが男女共同参画の内閣府特命担当大臣だった時期にも、法案の上程すらさせていません」(山口氏)

「家族の絆」の裏にネオリベの自助論

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