――「10代はこういう音楽が好きなんだろ?」と、音楽業界があぐらをかけていた時代も今や遠い昔。CDの売り上げが落ち続ける中、日本のレコード会社は10代の若者に興味を抱いてもらうために、どのような戦略を練っているのだろうか? メジャー/インディのレーベルに勤務するスタッフたちに実情を聞く。
去る9月中旬、売却交渉が進められていたTikTokだったが、マイクロソフトは買収を断念。これからも10代発信のヒットはここから誕生するのだろうか。
[座談会参加者]
A…メジャーレコード会社社員(50代・女性)
B…メジャーレコード会社社員(40代・男性)
C…メジャーレコード会社社員(20代・男性)
D…インディレーベル会社社員(30代・女性)
A 10代に対してどんな戦略やマーケティングを行っているのか? っていう企画のようで、私だけ50代で肩身が狭いんですが、よろしくお願いします。
B いや、年齢はただの数字ですから。きっとサイゾーは「年齢を重ねた人たちの戦略は、今や昭和の負の遺産なんじゃないの?」という結論を導き出したいはずなので、抗ってやりましょう。
C まず、「多感な10代で聴いた音楽は初期衝動として体にすり込まれ、20代、30代になってもずっと愛していく音楽になるはずだから、その10代に向けた施策を教えてください」とのことなんですが、みなさん、どうですか?
D 私が勤務しているレーベルはインディなので、そもそも10代に向けた音源のリリースが少ないんですが、実は先日興味深い出来事があったんです。某大学で音楽に関する講義を行ったんですが、そこで「CDを購入する学生」が5割以上もいて、サブスクと契約している学生も相当数いることがわかったんですね。
A へー、意外。サブスクの月額1000円前後を支払うことすら渋るイメージがあるのに。
D ただ、CDは積極的に購入しているわけではなく、限定盤やCDでしか聴けない楽曲やMVが収録されているものに対して、という条件がありまして、「音楽を聴きたい」という欲求よりも「コンテンツとして入手したい」という物欲のほうが強いのかもしれません。サブスクに至っては「アップルミュージック一強」という印象でした。
C うちの会社の新卒スタッフも、そんな感じです。サブスクはやっぱりアップルが強い。次いでスポティファイですね。
A そんな中、どうです、みなさん、10代に向けた施策?
D 私の場合は「(サブスクにおける)良質なプレイリストに入ること」が認知やヒットの近道だと思うので、「とにかく良い曲を作る」ということに重きを置いてます。スポティファイ・ジャパンのセレクター陣が選ぶ「New Music Wednesday」や「Early Noise」「Edge」など、複数のプレイリストに選んでもらえれば、おのずと話題になるし、発見しやすい長所もありますから。
A アップルミュージックだと「はじめての○○」に選ばれたら、「このアーティスト、キテる感」は演出できるよね。
B 発見しやすい施策としては「アートワークの単一化」っていう手法もありますよね。昔はCDをリリースするためにジャケットを著名なカメラマンに撮影してもらったり、イラストレーターに凝ったイラストを描いてもらったりしたじゃないですか。でも今は、予算も少なく配信がメインになっているから、それを逆手に取り、あえて“似たようなアートワーク”にすることで、リスナーの視覚に訴える。「このジャケット、よく見るな」って感じることで、クリックする可能性も高くなりますから。
A 私は「長いイントロを避ける」「1曲の分数を短くする」「間奏は作らない」「フェードアウトをやめる」とかが議題に上がったことがある。
B その手法はヒップホップ的であり、K-POP的、かつ現代的ですよね。確かにイントロが長いとスキップされる率は高くなるし、間奏が長い曲はカラオケで嫌われる。10代の音楽との接し方って、良い意味でファッション的なんですよね。「モテたいならイケてる曲を知っておかないと」っていう、昔も今も変わらないマインドに加えて、あいみょんや(Official)髭男(dism)、King Gnuもしっかり押さえておく。一定のジャンルをコアに聴き漁る10代も確実にいますけど、一般的なレベルでは、それが今のスタンダードなのかなって思います。