サイゾーpremium  > 特集  > エンタメ  > MACKA-CHINが語る「ラップとCMソング」
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(写真/cherry chill will.)

 学生や恋人同士、家族連れなど、老若男女問わず訪れる家電量販店の店内で流れる音楽といったら、「カメラはヨドバシカメラ♪」「ビーック ビックビック ビックカメラ♪」――といった、そのお店独自の“テーマソング”だ。しかし、埼玉県に本社を構え、同県在住者では知らぬ者がいない家電量販店「デンキチ」は、少々トガったスタイルでテーマソングをこしらえた。タイトルは「デンキチのテーマ~LOVERS ver~」、曲を歌うは“DENKICHI LOVERS”。そのメンバーは、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのMCであるMACKA-CHIN/SUIKEN/DABO、そしてラヴァーズロック・シンガーとしてカルト的な人気を誇るasuka ando。

 去る8月3日には同曲のミュージックビデオも公開され、店舗紹介をライミングしながら、デンキチ本社を縦横無尽に動き回るMC3人に加え、MVは未登場ながらasuka andoが「わたしの街のデンキチ お買いもの日和♪」とフックで花を添える。昨今、こうした企業CM(テレビ/ウェブオンリー問わず)にラップが採用されることは少なくないが、こうした試みも一歩間違えればアーティストとしての品位を下げかねない諸刃の剣になるかもしれない。そこで今回は、デンキチの新テーマソング・プロジェクトに参画し、プロデューサーとして手腕を発揮したMACKA-CHINと、ここのところ引く手あまたのasuka andoを招き、制作の舞台裏について話を聞くことに。さらには、ラップを用いたテーマソングやCMなどにも着目し、そのクオリティと可能性についても考察してみた。
(取材・文/佐藤公郎・編集部)
(写真/cherry chill will.)

――「デンキチのテーマ」を作る経緯から教えてください。

MACKA-CHIN もともとCM制作の仕事はこなしていたんですけど、今回はデンキチの専務がニトロのメンバーの幼馴染みということもあって、「お店が35周年を迎えるから、テーマソングをアップデートしたい」っていう依頼があったんです。企業から直接オファーすると(ギャラの)単価が高くなるから、「できればマッカ(チン)のコネクションを生かした上で」という前提のもと、プロデューサー的な立ち位置で参加したんですよ。デンキチは埼玉展開の家電量販店なんで、『サイタマノラッパー』の出演者に歌わせたら面白いかなとか、生バンドで女性ボーカリストを起用した歌ものがいいかなとか、複数のアイデアをプレゼンしたんだけど、デンキチの広報部長から「専務はニトロでテーマソングを歌うのもいいんじゃないか」って言われて。でも、テーマソングがラップだったらお店の印象が悪くなるんじゃないか? っていう不安もあったし、そもそもラップを生理的に嫌う人も散々見てきたから、俺個人としてはラップでテーマソングを作ることに否定的だった。

 旬な若手ラッパーを起用するならまだしも、ニトロがやることによって双方のブランドのイメージが崩れる可能性もあるよなー、ってことで、やっちゃいけない雰囲気も感じてたわけですよ。誰ひとり賛同しないんじゃないかというダメ元で、一応ニトロのメンバーに打診してみたら、SUIKENとDABOから「デンキチには恩があるから」って快諾の返答があって。ほかのメンバーはスケジュールの問題とかもあって参加できなかったんだけど、そうなると俺も参加せざるを得ない感じになってきて、最終的にこの3人になった感じです。

――そこへasuka andoを起用した理由というのは?

MACKA-CHIN もう最初から決めてたんだよね、曲を作るならアスキー(asuka ando)をボーカルで起用したいって。ほら、家電量販店のテーマソングってチャカチャカしてるっていうかさ、ちょっとピンサロで流れてるようなせわしないBGMっぽい感じがするじゃん。俺としては、商品をゆっくり安心して選んでもらえる音楽にしたかったから、レゲエの裏打ちのリズム、かつラヴァーズ(レゲエ)だったらうまくハマるんじゃないかなと思って。そこでアスキーがフックを歌うとなったらドンピシャでしょ。〈DENKICHI LOVERS〉って名前も、「デンキチを愛するユーザー」と「ラヴァーズ・レゲエ」のダブルミーニングでもあるんだよね。

――オファーを受けたときのasukaさんの心境は?

asuka ando 私は一方的にMACKA-CHINさんやSUIKENさん、DABOさんにお世話になった世代なんですけど、まさかこんな夢みたいなオファーってあるんだ、ってひとり歓喜しました。

――フックの歌詞もasukaさんが担当?

asuka ando そうです。ただ、「お買いもの日和」の部分がなかなかハマらなかったんですけど、SUIKENさんのアイデアでうまく着地できました。

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(写真/cherry chill will.)

MACKA-CHIN CM案件って、実はクラブミュージック・シーンでキャリアを積んでるアーティストたちの8割方が嫌がったりするんだよね。「自分のアーティストイメージにそぐわない」って。でも、アスキーは快く引き受けてくれてうれしかった。ちなみに俺の場合、40歳を超えたあたりからかな、そういうCM制作の面白さに気づいたこともあって、氷結果汁や釣り具のCM曲とか、マニアックな案件も請け負ってるんだよね。

――正直、マッカさんとDABOさんは前向きに捉えられる側のラッパーだと思っていましたが、SUIKENさんの参加は意外に映った人も多いんじゃないでしょうか。

MACKA-CHIN 超意外でしょ? しかもさ、ミュージックビデオを見てもらったらわかると思うけど、あいつだけ笑顔なの。最高でしょ。さっき「デンキチには恩がある」って言ったけど、SUIKENは電化製品を買うときは全部デンキチらしいんだよ。だから、恩どころか「お世話になっているんで絶対やります。ギャラもいりません」ってテンションだったからね。あいつは結婚して、ホントいい男になったよ。

――そのMVですが、最初から制作する予定だったんですか?

MACKA-CHIN レコーディングのときはまだ未定だったんだけど、せっかく作るなら面白いことをやろうってことで、MVも作ることにしたんだよね。デンキチのスタッフも「何をやっても構いません!」とか柔軟な対応で、撮影のときも結構な数の社員さんが遅くまで残ってくれて。でも、いざ出来上がったら、俺たちラッパー3人がサングラスをかけて店内物色してるもんだから、人によっては窃盗団の映像みたいに見えちゃったよね。

――デンキチ社内や周囲の反響というのは?

MACKA-CHIN アスキーは参加できなかったから、かなりハードコアで男くさいMVになったけど、ニトロのフォロワーたちも楽しんでくれてるみたい。デンキチ側からは「社内でも評判いいですー」って言われたけど……そうとしか言えないよね(笑)。新コロ(新型コロナウイルス)の影響もあってクラブにも行けないから、関係者とかからの直接的なリアクションはまだ拾えてないんだけどね。

asuka ando 私はありがたいことに、いろんな人からメールや電話をいただきました。サイゾーで連載を持っているライターの大石始さんからも「デンキチにいるんだけど、アスキーの声が聞こえる」って連絡をもらったり、母親からは「あなた、家電量販店のテーマソングなんてすごいじゃない」って。こないだは渋谷の「虎子食堂」のパーティに遊びに行ったんですけど、そこではDJがプレイしてましたからね。

MACKA-CHIN 今回の曲は、正確にはNITRO MICROPHONE UNDERGROUND名義じゃないけど、ニトロの楽曲で女性がフックを歌う曲も、レゲエのトラックでラップしたのも初なんだよね。そういう意味では、いやらしい言い方になっちゃうけど、プロデューサー的視点から言ったら「お目が高い!」「チェキれてる!」って感じてもらえると思う。もちろん、中には「おいおい、ニトロが電気屋のCMソングをやってるよ。セルアウトかよ」って落胆する人もいるだろうけど、SNSで何かしらを発信するご時世、みんながみんなセルアウトだしね。それに、その時代を経験して作るのと、知らないで作るのでは、マインドも変わるからさ。

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(写真/cherry chill will.)

――企業側のラップ/ヒップホップに対する生理的嫌悪も、だいぶ薄まってきました。

MACKA-CHIN それが大きいと思う。一時の抵抗感は間違いなく払拭されてるのは感じるんだけど、まだどこかに、うれし恥ずかし恐ろしや、みたいな感覚は残ってるんだけどね(笑)。

――評価は割れるにせよ、デンキチとしては「画期的な試みでテーマソングを作った」という既成事実は残ります。

MACKA-CHIN こんな面白い企画をやらせてくれる企業はなかなかないよね。デンキチは埼玉がメインだから全国的に知られてないかもだけど、今回の件で認知と広がりは持たせられたわけで。実際に曲のマスタリングはロンドンで行うという、音楽的な予算は結構割いたんで、音もバリいいはずです。

――せっかくなので、ラップを用いた企業CMも見ていきたいんですが、まずはZeebraさんが担当したニチレイ「本格炒め炒飯」のウェブCM(19年)ソングを。これは自身のクラシック「I'm Still No.1」を下敷きにしています。

MACKA-CHIN 18年間連続 Still #1! Zeebraと炒飯ってすごいな(笑)。どこの制作会社が作ったんだろう。かっこよさの中に笑いもある。これで日本語ラップをディスる層もいるんだろうけど、こういう動きで底辺の底上げにつながることも事実だからね。愛は深い。

――続いてKID FRESINOさんを起用した三菱地所『「体操ニッポン」どんな過去よりも篇』(19年)を。

MACKA-CHIN これはジェラシー。ラッパーって日頃からパンチラインを考えて言葉と向き合ってるから、ある種コピーライター向きだよね。つまり、ラッパー本人がCMに出なくてもいいわけだし、CM制作会社とかに入ったら、それこそ記憶に残るキャッチコピーとか作れそう。

――こちらはラッパーではなく太賀さんほか、俳優陣がラップを披露した「プレイステーション クラシック 空耳ラップ篇」(18年/ラッパーのマチーデフ氏が監修)。

asuka ando これは普通に面白い。ある意味、ソニーもスゴい。

MACKA-CHIN 昔はステレオタイプなラップばかりが採用されてたから、ほぼすべての作品がドン引きレベルのCMばかりだった。芸能人のラップとか超だっせえ! みたいな風潮もあったしね。でも今は、ゴールデンでも普通に日本語ラップがかかるようになって、テレビ局やCM制作会社のスタッフにも、決して浅くないラップ好きが増えた。もう、「ラップってダジャレでしょ?」とか「なんかお経みたい」とか拒絶する時代じゃなくなってきた証明でもある。不思議と違和感のマングローブ状態ではあるけど、これを“楽しむか楽しまないか”で捉え方はだいぶ変わるわけだしね。

――受け手と送り手の理解度が高まってきた証拠ですよね。

MACKA-CHIN それでも「デンキチのテーマ」を聴いて、「MACKA-CHIN、クソっしょ! 終わったね!」ってディスる同業者やリスナーもいるはず。でも、年を重ねて45(歳)超えてからやってみな! って思うんだよね。正直、30歳を超えてラップ続けられてるなんて思ってもなかったし。気づいたら50を超えてもラップしてる上の世代もいるわけで、「えー、いっちゃうんすねー。じゃあ、俺もいっちゃいまーす」みたいな感覚。社会に中指を立てる時代を生きてきて、30歳を迎えてより音楽的にのめり込んで、40代に突入して音楽をプロデュースする面白さに気づいたり。受け手がどう感じるかは未知数だけど、ラップやヒップホップのクオリティをアップさせる、面白い作品はどんどん作っていきたいと思う。

asuka ando バックグラウンドがあるとないとでは説得力が違いますからね。私も今回の「デンキチのテーマ」を機に、もっと自分の音楽を身近な場所へ届けたいって気持ちが強くなりました。クラブに足を運ぶ人たちだけじゃなく、もっと広がりを持たせたい。だって、普通に良い作品ができたと思いますからね。なので、企業のみなさん、CMソング/テーマソングのオファー、お待ちしております。

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[MACKA-CHIN]まっかちん
1974年、東京都生まれ。ヒップホップグループ〈NITRO MICROPHONE UNDERGROUND〉のMCとして広く知られ、ソロ・アーティストとしてもジャンルレスに幅広く活動。
Twitter〈@MACKACHIN
Instagram〈@opec_hit

[asuka ando]あすか・あんどう
東京都生まれ。メロウなムードをまとった唯一無二のラヴァーズロック・レゲエ・シンガー。15年のデビュー作『mellowmoood』を皮切りに、コンスタントに作品をリリースする、いまもっとも注目すべきシンガー・ソングライター。
Twitter〈@asuka_ch
Instagram〈@mellowmoood


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