――コロナ禍によりアメリカ各都市はロックダウンされたが、ロサンゼルス(以下、LA)ではなんと大麻ビジネスが儲かっていたという。その中でも近年、人気を集めているのが大麻の成分を含む食品=エディブルだ。一体、何がどうなってるの!? LA在住のライターであるカナ夫氏が、大麻フードの現状をレポートする。
(写真/Getty Images)
LAのエリック・ガルセッティ市長が3月4日に新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく緊急事態宣言を出してから、“必要不可欠”な事業以外は休業を余儀なくされた。LAの代名詞ともいえるエンターテインメント産業は当然のこと一時的に営業停止となり、レストランすべてがテイクアウトのみとなった。ほとんどの企業は社員にリモートワークを命じ、生活の維持に欠かせない病院やスーパーなどのエッセンシャル・ワーカーのみが従来通りに仕事をすることを許された。
ロックダウンは徐々に解除されつつあるが、コロナ禍中、LAをはじめカリフォルニアではある意外な産業が“必要不可欠”とみなされ、大繁盛している。それは、カンナビス(大麻)産業だ。
同州では、1996年から医師による処方箋があればメディカル・カンナビスの使用が合法となり、2016年には嗜好用大麻が合法化、18年からは嗜好用大麻を販売できる免許がディスペンサリー(大麻の販売店)に交付され始めた。現在は、21歳以上なら酒屋でお酒を買うような感覚で大麻を買える。ディスペンサリーで運転免許証を見せさえすればいいのだ。もちろん、がん患者、不眠症患者、てんかん症患者、慢性疼痛に苦しむ人など、メディカル・ユーザーもディスペンサリーでカンナビス商品を購入する。
大麻が合法化されてからは、商品の成分や生産者の情報が透明化され、大麻関連グッズのクオリティも格段に向上。かくしてカンナビス産業は、ここ数年で飛躍的に多様化し、LAでは19年に大麻入りのドリンクとフードメニューが楽しめるアメリカ発の大麻カフェ「Lowell Farms: A Cannabis Cafe」がオープンして話題となったり、観光客向けの大麻ツアーが人気を博したりしていた。
ディスペンサリーについては、内装がとてもおシャレで、まるで洋服のセレクトショップのような雰囲気の店も多いが、そこで売られる商品のバラエティさには驚かされる。
“ビギナー”のために補足すると、大麻のもっともオーソドックスな楽しみ方といえば、フラワー――乾燥したマリファナのお花をグラインド(粉砕)し、それをジョイント(紙巻き)にしたものやパイプに詰めたものに火をつけて煙を吸う方法。最近は、ヴェイポライザー(電子たばこ)でその蒸気を吸う方法も人気だ。また、カンナビスは大きく分けて、高揚感のあるサティヴァ、鎮静効果のあるインディカ、両方の効果を持つハイブリッドという3つのカテゴリーがあり、ディスペンサリーではさまざまな香りや味のフラワーが何十種類も陳列されている。さらには、ヴェイポライザー用のカートリッジや濃縮したワックス、樹脂、筋肉痛などに効果的な大麻入りのクリームと、あらゆるカンナビス商品が販売されている。
ところで、マリファナの向精神作用をもたらす主成分はTHC(テトラヒドロカンナビノール)だが、近年、ハイにならずにマリファナの健康効果が得られるCBD(カンナビジオール)という成分が注目されるようになり、これが入ったカンナビス商品が飛ぶように売れている。なお、THCとCBDの健康効果は似ているが、前者はさまざまな痛み、筋肉の痙攣、緑内障、不眠症、食欲不振、吐き気、不安症に効果があり、後者は発作、炎症、体の痛み、 精神病、吐き気、偏頭痛、うつ病、不安症、血圧を下げることに有効という研究結果が発表されている。
そして、数年前から急成長しているマリファナ商品のカテゴリーが“エディブル”だ。カンナビスのTHCやCBDが入った飲食品のことで、チョコレートやクッキー、ブラウニー、グミ、キャンディ、ミント、グラノーラ、ドリンク、オリーブオイルなど種類はとても豊富。カンナビスの煙は発がん物質などが含まれるため、それを吸引することに抵抗がある人たちの間で特に支持されている。
とはいえ、エディブル自体の歴史はとても古く、3000年以上前からインドではマリファナの芽や葉をギー(バターオイル)、ミルク、スパイスと混ぜたマリファナ・ドリンクの“バングー”が宗教儀式で用いられたり、嗜好品として飲まれたりしてきた。また、1980年代初期、サンフランシスコで大麻入りの“ポット・ブラウニー”をエイズ患者に提供していたのがブラウニー・メアリーことメアリー・ラスバン。彼女は、アメリカにおけるエディブルの歴史を語る上で外せない人物である。