――誰が言い出したのかはわからないが、「日系スーパー」という言葉がある。これは海外で「日本の食品などが売られている小売店」を意味するのだが、アジアだろうと欧米だろうとこの手のスーパーは、現地に住む日本人にとってなくてはならない存在となっている?
15年にオープンしたイオンのインドネシア第1号店となる「イオンモールBSD CITY」の店内の様子。「SUGOI SALE」が行われている。(Photo by Donal Husni/NurPhoto via Getty Images)
東京の池袋や新大久保といった国際色豊かな街では、さまざまな国の出身者が小売店を営んでおり、同郷の人々の暮らしを支えている。それと同様に、海外にも日系の小売店が存在し、在留邦人の間で重要な「生活インフラ」となっているのだ。
例えば、お菓子ひとつとっても「ポッキー」や「きのこの山」といった慣れ親しんだ商品は、海外のスーパーではなかなか手に入らないし、またネットが未発達だった時代には書籍をはじめ、日本のテレビ番組が録画された「レンタルビデオ」なども存在し、重要な情報ソースとして機能していた。
日系スーパーはチェーン店としては北米を中心に展開している「ミツワ・マーケットプレイス」や、アジアを主戦場とする「イオン」などがメジャーな存在であり、彼らに比べれば規模は小さくなるものの、「イトーヨーカドー」なども定着している。
その一方で、地域密着型の小規模チェーンも存在しており、例えば北米ではシアトルの「宇和島屋」、ロサンゼルスの「トウキョウ セントラル(旧・マルカイ)」や「ニジヤ」、そしてニューヨークの「ダイノブ」や「サンライズマート」などがよく知られている。また、アメリカに限らず、日本人が少ない地域であっても、都市部には必ずひとつは個人商店レベルの日系スーパーがあるという。
どの企業にとっても海外進出というのは難しいものだが、中でも「日本人相手に日本の食品を売る」スーパーマーケットの運営は他業種と比べていっそう難しいように思える。そもそも、海外の在留邦人数は今でこそ139万人を超えているが(2018年調べ)、日本の小売業による海外進出のピーク時であった90年代は100万人もおらず、ターゲットもそれほど多くないようにみえる。彼らはなぜ海外を目指し、そして定着できたのだろうか?
また、最近の小売業界の動向を見ても、スーパーの売り上げはここ30年くらい横ばいで、100円ショップやコンビニ、そしてアマゾンをはじめとするECサイトにやられっ放しである。欧米でも老舗の日系百貨店が相次いで閉店しており、仮に日系スーパーがこの波に呑まれたとしたら、現地の在留邦人はどこで日本の新鮮な食材を仕入れればいいのだろうか?
コロナによる影響で「食」について考える機会が増えた今だからこそ、本稿では日系スーパーの歴史やアイデンティティを紐解きながら、今後どのようにして生き延びていくべきかを『小売業の海外進出と戦略――国際立地の理論と実態』や『アジア市場を拓く――小売国際化の100年と市場グローバル化』(共に新評論)などの著作がある、関西学院大学教授の川端基夫氏の話をもとに探っていきたい。