――日本人で初めてブルーノートと契約したトランペッターとして、国内外で圧倒的な存在感を誇る黒田卓也。激変する世界の中で彼が見いだした新境地とは?
(写真/三浦太輔・go relax E more)
音楽には、それを奏でる音楽家が住む街の息遣いがにじみ出る。トランペッター、黒田卓也の場合、それは間違いなくニューヨーク・ブルックリンの匂いだ。
黒田は、今や「イケてる街」の代名詞となったブルックリンのウィリアムズバーグが、まだまだ物騒な雰囲気を漂わせていた頃から、この街の雑多なエネルギーを取り込み、自らのスタイルへと昇華させていった。連日のように、ストリートに立ち並ぶバーやライブハウスに顔を出して、ヒップホップやファンク、ソウルにアフロビートなど、あらゆる音楽家たちとコラボし、「ジャズ」の垣根を悠々と超えていったのだ。
その到達点のひとつが、2014年のアルバム『Rising Son』だった。日本人で初めて米名門ブルーノートと契約したこのアルバムは世界中で話題を呼び、そこで打ち出したジャンルを越えたビートミュージックで、黒田の代名詞になった。
そして16年の『Zigzagger』を経て、今年発売する『Fly Moon Die Soon』には、そんな彼の知られざる一面が凝縮されている。
「20代の時は、ニューヨークで思いきりオーセンティックなジャズを目指してたんです。大きな転機となったのが、(黒田をブルーノートに紹介したシンガーの)ホセ・ジェイムズとの出会いでした。そこから、僕のジャズは一気にビートの強いものに持っていかれて、その上での『Rising Son』だったんです。だけど、そこで確立したライブ感を重視してメンバーを集めて即興性を打ち出すアルバム作りにやる気が出なくなったんです」