――今年、33歳という若さで日本アカデミー賞を獲得した気鋭の映画監督・藤井道人。そんな彼の新作は『ヤクザと家族 The Family』。本作の監修・所作指導をしたのが、元ヤクザの肩書を持つ作家の沖田臥竜。これまでのヤクザ映画とは一線を画す、徹底的に「ヤクザのリアル」を追求した同作品は、現代社会に何を訴えかけるのか? どこよりも早く、当事者2人が語る。
『ヤクザと家族 The Family』
(2021年公開予定)
出演:綾野剛、舘ひろし ほか現代ヤクザの実像を、1999年、2005年、2019年と3つの時代で見つめる、ある男とその“家族・ファミリー”の壮大な物語(写真は撮影風景)。
――『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀作品賞などを獲得した藤井監督ですが、来年公開される新作は「ヤクザ」がテーマ。しかも監修と所作指導を務めたのが、弊社(サイゾー)でアウトロー関連本や山口組関連レポートを執筆している沖田さんということを知り、早速話を聞きたく、今日は集まっていただきました。まだ完成前で、出せる情報も限られているそうですが、作品を軸に現在のヤクザ事情についても伺えればと思っています。
藤井道人(以下、藤井) 新作は『ヤクザと家族 The Family』というんですが、その前に9月4日に『宇宙でいちばんあかるい屋根』という映画が公開されるので、そちらの宣伝もお願いします(笑)。
――はい、同作品の公開情報も載せますね。ところで、前作の『新聞記者』は、現政権やそこに忖度するメディアへの批判精神があふれている骨太な作品でした。
藤井 『新聞記者』は自分が監督をするまでに紆余曲折あって、自身の精神から生み出されたというより、プロデューサーが意図した社会への挑戦状という側面が強かった気がします。その挑戦的な意図が明確に伝わる映画にしたかったので。
――『新聞記者』の原案は、安倍政権批判の急先鋒である東京新聞の望月衣塑子記者で、プロデューサーの河村光庸氏も現政権下での民主主義の形骸化を憂える発言をされています。その“反権力映画”が日本アカデミー賞を受賞したことは、特にネット上で賛否を呼んで、右の人たちからは「赤デミー賞」などと揶揄する向きもありました。
藤井 『新聞記者』については、エゴサーチしないと決めています。望月さんや河村さんほどの強い政治的な信念もなく、傷つきそうなので(笑)。その『新聞記者』と同じチームで作ったのが『ヤクザと家族』です。ヤクザの世界を描くにしても、今までにないものにしたかったので、家族関係を軸にしつつ、ヤクザやその家族の人権とか、ヤクザである主人公の周辺にいるそれぞれの立場の人間が、社会に対してどう生きていくのかというところを描こうと思いました。
――『ヤクザと家族』は、元ヤクザである沖田さんが書く作品とも通じる部分が多いとも聞いています。
沖田臥竜(以下、沖田) 自分も脚本を読んだときにびっくりしましたね。自分の場合は、実体験をもとに、ひとりの男がヤクザになる前と、ヤクザになったときと、ヤクザを辞めた後の人生を軸に物語を書くことが多いんです。ヤクザものだけど、抗争を中心にした切った張ったの暴力的な世界を書きたいわけじゃない。アウトローのリアルな姿や心情を書きたいのですが、『ヤクザと家族』もまさにそんな作品やったんで驚いたし、喜んで製作に協力させてもらいました。
――物語は、綾野剛演じる主人公の山本が不良少年時代に、舘ひろし演じるヤクザの親分・柴咲に救われたことで、親子の盃を交わすことになる。実父を失い、孤独になった山本は、ヤクザになることで新しい家族(親分や兄弟)を持つことができ、そんな組織のために体を懸ける。一方で山本はある女性を愛し、彼女に本当の家族像を求める。ただ、現代社会の中で、ヤクザであり続けること、ヤクザが家族を持つことの困難さを突きつけられる――山本の半生を縦軸に、敵対組織との争いやヤクザ組織の衰退、新時代のアウトローの勃興、警察の腐敗、そして家族との関係など、多くの要素が絡み合っていく。ヤクザ映画と聞いて想像する、抗争や犯罪、任侠道などを中心に描かれている作品とは違うようですね。
沖田 今回の作品は「社会」「生活」にまで焦点が当たっている。今のヤクザをここまでリアルに描いているのは、ほかにはないでしょうね。暴力団対策法に続き、暴力団排除条例が施行されて、ヤクザへの締め付けが強くなって、組織運営もままならなくなっていく。シノギが減って、組員も減って、若い子たちは比較的カタギに戻りやすいけど、長くヤクザの世界にいた年輩者は行くところもなく、ズルズルと組織に身を置きつつ、小銭稼ぎをしている。しかも、そんな彼らの家族も、社会の中で厳しい扱いを受ける。見ていて、自分に置き換えてしまったりして、胸が苦しくなりました(苦笑)。