《羽を広げるフクロウ》1988年
「自然界の報道写真家」を自称してきた宮崎学のひとつの到達点は、1990年の第9回土門拳賞受賞作となった写真集『フクロウ』だろう。この連作でもっとも印象的なのは、立木の上でまるでモデルのように次々とポーズを変えるフクロウの姿だ。この立木は木の上に止まる鳥を意味する「梟」という漢字のなりたちから宮崎が思いついた舞台装置で、河原で拾ってきた木を谷間に立てたものだという。フクロウはこの上で首を回転させながら餌となる小動物を狙い、宮崎のほうはフクロウに人間の出す音や照明、あるいは宮崎自身の存在にも徐々に慣れさせながらカメラでその姿を狙う。いや、実際にフクロウを待つのは、赤外線や糸、照明などと連動した無人カメラだ。そのためには空中や樹間にもあるけもの道を見いだしたり、自らの手で新たに作り出さなければならない。
驚くべきは、自分の撮影ポイントにフクロウを呼び込んでしまうという発想の転換だろう。つまり、フクロウのテリトリー内に自分のテリトリーを構築し、周辺一帯を「自然のスタジオ」と化してしまったわけだ。撮影のために目をつけた谷間まで電気を引き、観察小屋を建て、フクロウの鳴き声の意味を理解し、餌となるネズミの飼育まで行ったというから、さらに驚かされる。