――先頃の東京都知事選前に出版され、話題となった評伝『女帝 小池百合子』。綿密な取材をもとに過去にも取り沙汰された「カイロ大卒業」疑惑を追及したりする一方、政治という男の世界でのし上がってきたその“女性像”も描き出している。そんな本書と、そして彼女自身を、フェミニズムの視点から読み解いてみよう。
『女帝 小池百合子』(文藝春秋)
7月5日に投開票された東京都知事選で、次点に280万票以上も差をつけて小池百合子氏が当選した。朝日新聞社の出口調査(60投票所、有効回答数2755人)によると、小池氏の年代別の得票率は70歳以上が65%ともっとも高く、10代が61%、50代が57%、60代が56%、20代が49%、30代が47%。男女別の得票率では、女性の支持が61%に上るという。
この圧勝劇を意外に思った人もいるだろう。というのも、都知事選の告示日(6月18日)直前の5月29日に、石井妙子著『女帝 小池百合子』(文藝春秋)が発売されたからだ。本書は、小池氏の生い立ちから現在まで、その半生をつぶさに追ったもので、「カイロ大学首席卒業」という学歴詐称疑惑に切り込み、現在20万部のヒットとなっている。また、小池氏がテレビキャスター時代、そして政界進出と、常に若さや愛嬌、ミニスカートにハイヒールなどを武器とし、その時々で力のある男たちにすり寄っていくさまも描かれ、一読すると小池氏が“女”を売りにして都知事まで上り詰めたような印象を受ける。ツイッターでは多くの反小池派が「都知事選前に読むべき」と紹介していた。
本書は小池氏の生き方を追う一方で、『女帝』というタイトル通り、昭和27年(1952年)に生まれたひとりの女性の立身出世物語としても読むことができる。著者の取材に答えた法政大学元教授の田嶋陽子氏は、次のように評している。
「小池さんは女の皮はかぶっているけれども、中身は男性だと思う」
「フェミニズムの世界では『父の娘』というんですよね。父親に可愛がられて育った娘に多い。父親の持つ男性の価値観をそのまま受け入れてしまうので彼女たちは、女性だけれど女性蔑視の女性になる。男性の中で名誉白人的に、紅一点でいることを好む。だから女性かといえば女性だけれど、内面は男性化されている」
女性に強く支持されている小池氏の生き方は、本当に“男性化”しているのか。女性を救う生き方ではないのか――。
そこで、ここからは『女帝』をフェミニズム、ジェンダー論の視点から読み解いてみたい。本誌で「オトメゴコロ乱読修行」を連載する編集者/ライターの稲田豊史氏は、本書について次のように語る。
「自分の経歴や業績を大きく見せようとするところに、いわゆる“男”っぽさを感じました。男は、自分が手がけた仕事がいかに“大きい”かを話すことで、常にソフトマウンティングをとりがちですから。もっと言うと、男というよりもイタい大学生っぽい。ツイッターのプロフィールに著名人の名前を出して『○○さんとつながっています』と書いたり、ベンチャー企業で短期間バイトしただけなのに『△△にジョインしました』と書いたりして、箔を付けたがる学生がいますよね。そういう若者も、小池さんも、“物語”をつくることで自分をブランド化し、世の中に売り込もうとする。
小池さんの場合、カイロ大学卒業を記念して着物姿でピラミッドに登り写真を撮ったことも、2016年の都知事選で石原慎太郎さんに『大年増の厚化粧』と言われた際に『生まれた時から、アザがあるんです。それを化粧で隠している』と反論したことも、うまく“物語”にしています。また、子宮筋腫手術で子宮を失くされたのは大変気の毒だと思いますが、いまだに『家庭を築いてこそ一人前』の圧力が強い政治の世界においては、そのような辛い経験すら、自分が独身であることのエクスキューズとして機能する“物語”に組み込みました」(稲田氏)