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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第150回

『ザ・ファイブ・ブラッズ』アメリカでは被害者、ベトナムでは加害者――黒人帰還兵のジレンマ

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『ザ・ファイブ・ブラッズ』

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ベトナム帰還兵4人が、再びベトナムの地を訪れた。表向きは所属部隊のリーダー、ノーマンの遺骨を収集するためだが、本当の目的は戦時中に隠した金塊を掘り起こすことだった。ある者はPTSDに悩まされ、またある者は帰還兵に手厚い福祉を約束するトランプ支持者となっている。やがて彼らは現在のベトナムで激戦の記憶が蘇るが……。巨匠、スパイク・リーが肉薄する”もうひとつのアメリカ”の姿。
監督:スパイク・リー、主演:デルロイ・リンドー、ジョナサン・メジャース、クラーク・ピータース、ノーム・ルイスほか。Netflixで現在配信中。

 5月25日、武器を持っていない黒人男性ジョージ・フロイドを逮捕しようとした警官が、彼を窒息死させた。その現場のビデオを見た人々は怒って暴動を起こし、抗議デモは「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」運動として全米に広がり、今も続いている。

 この事件を30年以上前に描いた映画があった。

 スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年)だ。時代を先取りした、といわれたリー監督は憂鬱そうにこう言った。

「83年当時、実際にあった警官による黒人殺害事件を元にしただけさ。それからアメリカが変わってないってことだよ」

 リー監督の新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』にも「Black Lives Matter」運動が登場するが、今回の騒ぎで急遽撮り足したわけではない。この運動は2013年から続いているのだ。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』は「5人のブラッド・ブラザーズ(義兄弟)」の略。1960年代終わり、ベトナム戦争の戦場で固い友情で結ばれた5人のアフリカ系男性が自分たちをそう呼ぶ。彼らは戦争から45年たった今、再びベトナムを訪れる。ジャングルの奥地で戦死したリーダー、ノーマンの遺骨を収拾するため……とは表向きの理由で、実は、現地に埋めた金塊を掘り返しに行くのだ。

 ところが金塊の周囲は地雷だらけ。しかも金塊を狙う地元のギャングに襲われ……。

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