あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。
今月のテクノロジー『バイオハッカー』
――バイオロジー(生物学)の知識を使って、さまざまな生き物を加工したり、操ったりするハッキングを行う人々のこと。今回のDIYワクチンの製造は「プロジェクトマカフィー」と名付けられており、まるでパソコン用のウイルス検知ソフトを作るかのように、新型コロナウイルスから体を守るワクチンを自宅で作ろうという挑発的な内容になっている。科学を民主化するという理想を掲げる一方、治安当局などからはバイオテロのリスクなどが疑われている。
6月25日、いつも通りにデスクトップPCのメール受信箱を見ていたら、ある一通のメールに興味をそそられた。
「無料のバイオハッキング教室にようこそ」(※日本語意訳)
件名がついたメールをクリックすると、ある有名なバイオハッカーが、これから新型コロナのワクチンを、みずから製造するというプロジェクトの案内だった。新型コロナウイルスのゲノム情報の一部を、体内に注射する。そうすると体の中の免疫システムが働いて、この新型コロナと戦うための抵抗力がつけば成功だという。
いやいや、ご冗談を。まずそう思ったのも、当然だろう。製薬会社がワクチンをつくる場合は、何段階もの安全性などの確認テストをした後、規制当局によるチェックを受けて、ようやく治療薬として販売される。場合によっては、5年、10年という歳月がかかるものもあるほどだ。
ところが、このステップを全部すっとばして、いきなり人体実験をやろうというのだ。
しかも元ネタになったのは、ハーバード大学の研究者たちによる、マカクザルという「猿」を対象にしたDNAワクチンの実験だ。
つまり猿でしか確かめていないワクチンを、ガレージで自作して、使おうという。あまりにも、ぶっ飛んだアイディアだ。